第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
彼の場合、私の存在すら知らなかったなんて事もありえなくない。
これは貴重だ。
「聞いたなら尚更やめときな。私といても面白くもないしね」
屋上の扉を開いて、外に出ると、明るい日差しが目を刺激する。
いい天気だ。こういうのを、お昼寝日和とでも言うのだろうか。
当たり前のように同じ場所にいる彼は、一体何を考えているのか。予想する理由は、今まで私に関わってきた男達と同じ理由が何個か思い当たる。
ただの好奇心と、噂を確かめる事と、ただヤりたいだけ。
「山田君の理由は、どれ?」
「は? 何だよ理由って」
私はフェンスに凭れ掛かる山田君にギリギリまで近づいて、彼の前に立つ。
背が高い彼を見上げると、目だけを逸らされる。
動揺しているのか、目が泳いでいる。
「誘えば誰にでも着いてって、簡単に足を開くクソビッチ。高校に入る頃には100人切り達成。後は何だったかな。彼女がいる男にも手を出すから、親友の彼氏を奪った、学校以外に年上の彼氏が何人もいて、パパ活やら援交やら……だっけ……」
多すぎてあまり全部は覚えてないけど、こんな感じの噂だった気がする。
この中に真実なんてひとつもない。
昔知らない女の子の彼氏に、告白されて襲われそうになった事くらいだ。
多分噂の始まりはアレからだ。
『コイツから誘って来たんだ』
あのクソ野郎の言葉が、いまだに忘れられないでいる。
「ただの興味? 好奇心? それとも、私とヤりたいの?」
「しょ、正直、あんたに興味は、ある、けど……別にヤりてぇとかじゃ……」
顔を赤くして言っても説得力ないんだけどなと思いながらも、この顔は嫌いじゃないなとも思う。
というか、私に興味はあるのか。ヤりたい訳じゃないのに、私に興味を持つなんて、どうなってるんだ。
「山田君て、バカって言われない?」
「なっ……んだよ……っせーよ……」
あるんだ。ますます可愛い。
「山田君、ほんと可愛いね」
「それやめろよ。可愛いは、褒め言葉じゃねぇ……」
「だって、可愛いものは可愛いから。私も山田君にちょっと興味出たかも」
さっきより距離を更に近づける。
「何で迫って来んだよっ……」
そう言って顔を背けていた山田君が、突然顔を近づけてきた。