第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
私を体で隠しながら、手馴れた手つきで湿布を貼ってくれたたっくんにお礼を言い、服を整える。
「ま、お前が傷物にならなくてよかったよ」
「ボール当たっただけだよ。たっくんは過保護過ぎ」
また頭を撫でられる。いつもの事なので、なすがままになっていた。
ふと視線を感じて、そちらを見る。
扉付近にまだ彼は立っていた。彼に近づくと、少しビクリとしする。それに気づかないフリをして、彼を見上げた。
「心配させてごめんね、ありがとう。山田君」
言って微笑むと、彼の顔がハッキリと赤くなるのが分かった。
「ふふっ、山田君て可愛いね」
「か、かわっ!? か、か、可愛くねぇよっ! 可愛いとかっ、男に言う事じゃねぇだろっ……」
顔を逸らして、手の甲を口元に当てている。
ほらやっぱり可愛い。
からかうのがクセになりそうだけど、これ以上はよくないな、彼にとっては。
「山田君。突然だけど、もう私には関わらないで」
「は? 何言って……」
「君の為だから、騙されたと思って聞いときなって。それじゃーさようなら、山田君」
人気者の彼が嫌われるなんて事はないだろうけど、私といたら印象はあまり良くはない。
それがいくらありもしない噂でも。そう思われる私にも原因はあるから。わざわざ否定しようとまでも思わないし、誰に何を思われても構わない。
けれど、私のせいで、彼まで悪く言われるのは違う気がする。
たっくんと山田君に挨拶を済ませ、保健室を後にする。
授業が始まってしまって、今更教室へ向かって、注目を浴びたくはない。
仕方なく、サボりの定番場所である屋上へ向かう。
「何でついてくんの? さようならって言ったんだけど、聞こえなかったの? それとも日本語通じないの?」
「別に、誰といるか決めんのは、俺だろ」
顔だけ後ろを向いて、少し離れた場所にいる山田君に声を掛ける。
声は返ってくるのに、やっぱり目が合わない。
こんなにしつこくされるとは思わなくて、私の噂を知らないなんて人がいるはずないけど、まさかと思って歩きながら後ろに言葉だけを投げる。
「私の噂、知らないの?」
「……さっき、ダチからちょっとだけ聞いた」
さっきと言うなら、やっぱり知らなかったのか。