第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
同じように立ち上がり、不思議そうにボールを受け取った彼が私を見る。
だけど、目がなかなか合わない。
照れているのか、女子ともよく話しているし、女子が苦手なイメージはないんだけれど。
あぁ、そうか“私”が相手だからか。
自分が他人から何を言われ、どう思われているかなんて今更だ。
「早く戻ったら? 友達、待ってるよ」
「え……あっ、おいっ!」
引き止める声を無視して、私は歩き出す。
今時珍しい平凡な名前。山田二郎。
私が彼と話をした、初めての日だった。
彼と別れ、やっぱり腕が痛いのでその足で保健室へ向かった。
保健室には誰もいなくて、仕方なく薬の入った棚を漁る。
「確かこの辺に……」
その時、保健室の扉が開いた。
「おっ、来たか不良娘」
「勝手に不良にしないでよ、たっくん」
白衣を着てインテリメガネを掛けた、気だるげなこの男はこの学校の保健医で、私の母の弟で叔父に当たる人だ。
私には両親がいない。幼い頃に事故で亡くなってから、私の育ての親はこの人。
そして、私はここの常連という忙しい内容になっている。
「今日はどうした?」
この人の癖は、私をやたらと撫でる事だ。いつまでも子供扱いだ。まぁ、嫌いじゃないけど。
私は先程あった事を話し、湿布をもらう。
「ほら、腕出してみな」
仕事はちゃんとするという、線引きは出来る人なので、私も甘えてしまう部分は、無きにしも非ずだ。
制服のボタンに手を掛け、腕が見えるようにシャツを脱ぐ。
―――ガラガラ。
扉が開き、そちらに視線を向けると、綺麗なオッドアイと視線がぶつかる。
「すんませー……い゛っ!?」
「おいこら、ノックもしねぇで入るバカがあるか」
素早く私を隠すように立ち上がって、白衣を広げたがたっくんが、扉の前で固まる男子に声をかけた。
「お前は確か、山田二郎だったか」
「っス……。あの……その子、大丈夫スか?」
私の心配をわざわざして来てくれたのか。何ていい子なんだろう。
たっくんの後ろから顔だけ出して、一言「大丈夫だって言ったのに」と彼に向かって言葉を投げた。
少し照れたように顔を逸らした山田二郎君。
ほんとに、初な反応をする。