第2章 〔二郎side〕
出かける約束をしてから、俺は浮かれていて、どこにいてもを探してしまう。
その日は、なかなかを見つけられなくて、俺は廊下を小走りに進む。
チャイムが鳴り、教室に戻る瞬間、女子数人がトイレから笑いながら出てくる姿が見えて、小さな声で「調子乗るからだよ、いい気味」と聞こえた。
嫌な予感がして、そちらに向かう。
女子トイレだとか、今はそんな事を気にしてる余裕が俺にはなかった。
「マジかよ……」
中へ入って、扉が微妙に開いた個室が目に入る。
水浸しのそこに、がいた。
全身びしょ濡れで、洋式便器に座っていた。
「……女子は過激だな……大丈夫かよっ……」
「二郎……うん、大丈夫。ていうか、ここ女子トイレだよ」
何事もないように笑うに、胸がモヤっとする。
立ち上がろうとするの体に、脱いだ上着を掛けてやる。
「二郎、ダメだよ、濡れちゃうからっ……」
「お前さ、何でこんな事されてんのに笑うんだよ。笑うとこじゃねぇだろ」
張り付いた髪を取って、水滴を服で軽く拭う。そのまま頬を撫でる。は何も言わず、ただ黙ってされるがままになる。
「抵抗するのは私にとって結構簡単なんだけど、それをしたところで、ああいう子達はやめないし、大人しくしてれば、そのうち噂も嫌がらせも、飽きたらどうせなくなるから」
そう言ってまた笑う。
何でこいつは自分をこんなに簡単に犠牲にしてしまうんだろう。
「お前がそんなんじゃ、ほっとけねぇよ……」
「二郎が気にする事じゃないよ。噂ってさ、される側にも責任あると思うんだ。ほら、火のないところにってよく言うでしょ? 特に私みたいなのは、ね」
仕方ないとでも言うように、苦笑するを、俺は抱きしめた。
「二郎っ! あなたまで濡れるからっ……」
「うるせぇな。黙ってろ」
抵抗したを黙らせて、俺は抱きしめる腕に力を込めた。
やっぱりこいつは、俺が守ってやらないと。これ以上、黙って見てはいられない。
そう心に決めた。