第1章 不良少年とビッチ(?)なあの子
これ以上、たっくんにも迷惑は掛けられない。
蹴られ、髪を掴まれて殴られるのを、ただ耐える。
体の痛みはいつか消えるから、これくらいどうという事はない。
彼女達の体力も底なしなわけじゃないから、すぐに終わりを告げた。
「さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ」
「つまんない女」
「あはは、ボロボロじゃん。いい気味ー」
心底楽しそうに笑う彼女達を、この力を違う場所で発揮すればいいのにと思いながら、横目で見る。
「次二郎君に近づいたら、もっと酷い目に合わせるから、覚悟しとけよな」
髪を掴まれ、顔を上に上げさせられる。
「お前等、何やってんだよっ……」
何で今来ちゃうかな。もっと後に来れば、彼女達も見つからなかったし、私だって誤魔化す時間があったのに。
彼みたいなタイプは、多分こういう場を収めるのには向いていない気がする。偏見だけど。
「じ、二郎、君っ……こ、れはっ!」
「違うの二郎君、この子がっ……」
口々に言い訳を始める彼女達を制して、私は口を開く。
「私が勝手に転けただけだから、彼女達は関係ないよ」
別に彼女達を助けようとか、そういう偽善的な事を言うつもりはない。
ただ、この場はこうでもしないと、どんなややこしい話になるかが、全然予想出来なかった。
これ以上拗らせるのは、得策じゃない。大事にして、たっくんに心配や迷惑をかける訳にもいかないから。
彼女達は信じられないような顔を私に向けるけれど、私は眉間に皺を寄せて、難しい顔をしている二郎に「何でもないから、騒がないで」とお願いする。
彼女達に顔を向けて、言葉を投げる。
「手を貸してくれて、ありがとう。ここは大丈夫だから、もう行って」
意味が分からないと言ったような彼女達に、今までの人生の中で浮かべた事がないんじゃないかというくらいの、満面な笑みを浮かべてやる。
言葉を詰まらせた彼女達は、去って行った。
特に何事もなく済んで、私は安堵のため息を吐いた。
私に歩み寄る二郎が、目の前まで来てしゃがみ込んだ。
「お前、何でアイツ等庇ったんだよ。何かされたんだろ?」
「されてないよ」
「嘘つけ。そんなボロボロになって言っても、説得力ねぇよ。俺バカだけど、さすがにそのくらいは分かる」