The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第5章 聖夜決戦
それだけを言うと、修二はバイクのエンジン音を鳴らして走って行った。
彼の消えて行く後ろ姿を眺めながら、手元にある星のイヤリングを見つめる。
「……綺麗」
今日のデートで付けていこうかな。
そう思いながら後ろを振り返った瞬間、私は思わず飛び跳ねそうになってしまった。
「か、母さん·····」
後ろを振り返れば、カッチリした着物姿の母さんがいて、修二が走り去った方向を向いている。
「修二君が来たのね」
「あ、はい·····」
「丁度いいわ。私も貴方に渡したいものがあったから」
「わ、渡したいものですか·····?」
着物の袖に手を入れた母さんは、ゆっくりとした手つきで何かを取り出す。
そしてこちらに近寄ってきたかと思えば、私の手を取り、手の中に何かを置く。
「·····これ」
「エメナルドの石を使ったネックレスです」
エメナルドの雫型の宝石が付いたネックレス。
太陽の光を浴びてキラキラと輝いていて美しい。
だが、何故エメナルドなのだろうか。
何か意味があるのだろうかと思いながら、母さんを見る。
「……素敵な誕生日を過ごしなさい。誕生日、おめでとう」
「……あ」
「寒いから早めに家に入るのですよ」
母さんは早歩きで家の中に入っていく。
その後ろ姿を見送った私は、手の中にあるエメナルドのネックレスを見つめて固まっていた。
初めて誕生日を祝われた。
今まで『おめでとう』なんて言われたことがなかった。
誕生日プレゼントなんてもらったことがなかった。
初めてのことに驚きと、同時に嬉しさや戸惑いが込み上げてくる。
「……でも、なんでエメナルドのネックレス?」
首を傾げながらも、寒さに身体が震えて、慌てて家の中に飛び込むように入った。
「あら、和泉。おはよう」
「おはよう、由香おばさん」
廊下を歩いていれば、由香おばさんと鉢合わせする。
そして私の手の中にある物を見て、小さく微笑んでいた。
「今日、隆君何時に迎えに来るの?」
「9時に迎えに来るけど」
「じゃあ、私がそれまでに髪の毛とかお化粧してあげましょうか」
「いいの?」
「いいわよ。ほら、まずは隆君がくれた服着てきなさい」
「はーい」