The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第5章 聖夜決戦
あの武道が女と歩いていたという言葉に目を見開く。
「長い黒髪の女の子。仲良さげにしてたの……」
「長い黒髪……一昨日……」
ふと、私はあることを思い出す。
そういえば一昨日、私はウィッグを外して武道と共に歩いていたなと。
もしかしてそれ、私では無いだろうか。
まさかの可能性に少しだけ焦る。
もしかしたら、男装していなかった私を見て橘は勘違いしているのでは無いかと。
「橘……あの、もしかしてなんだけど」
「ん?」
「その女、私じゃないかと思う」
「え?」
私は慌ててウィッグを外した。
はらりと髪の毛が揺れて落ちていく中、橘がその瞳を大きく見開かせたのが見えた。
そして驚いた表情を浮かべて、口に手を当てる。
「……え!?」
「橘にはずっと隠してたけど、実は……女なんだ。家の事情で、男装していたんだ。で、一昨日武道とこの姿で歩いていた。多分、橘が見たのは私なんだと思う」
橘は目を見開かせながら、私をじっと見つめる。
それから少し可笑しそうに微笑む。
「実はね、ヒナ……薄々勘づいてたよ」
「え!?」
「小学校の頃は気付かなかったけど、最近は薄々勘づいた。もしかしたら君は女の子じゃないのかなって。見た目もそうだし、声もそう。もしかしたらって」
女の勘は鋭いとよく言う。
その言葉通り、橘は勘が鋭いのかもしれないと関心してしまう。
「そっか、勘づかれてたかぁ」
「でも、そったか……あの時の女の子は君だったんだね。ねぇ、家の事情って聞いても大丈夫?」
「え、あ……まぁ」
重苦しい話だし、今話すべきかと思ったけれど橘に聞かれて私は家の事情を説明した。
同時に今は男装を強制されていないことも。
「そっかぁ。そんな事情があったんだね……。でも今は解放されて良かったね」
「うん。だから一昨日、男装してなかったんだ。だから、武道は浮気はしていないと思うし、橘のこと大切にしてたから……振ったのはなんか別の理由があるのかも」
「そうなのかな……」
「橘……。橘は武道と別れたい?」
そう尋ねると橘は勢いよく頭を横に振る。
「ヒナ、タケミチ君と別れたくない」
「橘、武道が大好きなんだな」
「……うん。だから、振られても諦めたくはないの」
強い子だと思った。
この子はとても強い子だと。