The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第5章 聖夜決戦
ー三人称ー
和泉が思い浮かんだのは水族館だった。
一度だけ、真一郎と鳴海に連れられて行った水族館は綺麗で美しくて彼女の中では輝いた世界になった。
あの美しい世界をもう一度見たい。
美しい世界を三ツ谷と共に眺めたいという欲望が膨らむ。
「水族館……」
「水族館?」
「昔、小さい頃に一度だけ真一郎君と鳴海ねぇに連れて行ってもらったんです。その時、凄く綺麗な世界で美しくて……そこに、隆さんと一緒に行きたいです」
三ツ谷は瞬きをする。
神澤和泉という人物は、あまり要求してこない。
最近やっと『何が食べたいか』という質問に答え始めたが、それまでは悩みに悩んで返答が出来ないことがあった。
(やっと、オレに要求してくれるようになったな……)
何かを要求してくれる事が三ツ谷は嬉しかった。
「水族館の他に、何処か行きてぇ場所はねぇの?何がしたいとか」
「水族館に行ければ、それだけで良いですよ……?」
「誕生日なんだぞ?どこかのレストランで飯が食いてぇとか」
「あ、水族館のレストランでご飯食べたいです」
三ツ谷は少し戸惑った。
和泉の誕生日を知ってから、小遣いをなるべく貯めて無駄遣いをしないようにしてきた。
これも全て和泉の誕生日に何かしてやりたかったから。
水族館なら中学生割引で安くなる。
レストランもそこまで高いものはない。
だが、誕生日だ。
特別な事をしてやりたいし、楽しませてやりたいが……。
「それだけで良いのか?」
「私にとっては、隆さんと居れる事が1番大切ですから」
なんとも嬉しいことを言ってくれると、三ツ谷はニヤけそうになってしまう。
恋人がこんなにも愛しい。
大切にしたい、命を懸けてでも守りたい。
昔の自分ならこんな事思うことはなかった、と三ツ谷はしみじみ思った。
(恋人が出来るとも思ってなかったからな…)
三ツ谷の中で女性は庇護するものだと根強くあった。
大切にする女性ならば妹達と母だけで充分であり、他の女性は庇護するだけ。
困っているなら助けてやるだけの存在だった。
和泉と出会うまでは。
神澤和泉という女の子に惚れてからは、世界が変わったような気がした。