The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第5章 聖夜決戦
出会った頃は、こんなに子犬のようではなかったなと和泉は青宗と出会った頃の記憶を手繰り寄せた。
初めて会った時、まるで野良犬のようだと思ったことを強く覚えている。
「和泉!首、見せて」
過去の事を思い出していれば、慌てた表情の柚葉が救急箱を手にして戻ってきた。
自分も殴られて怪我をしているのにも関わらず、彼女は和泉を優先した。
赤黒くなった首に塗り薬を塗ってから、包帯を手際よく巻いていく。
首に包帯なんてかなり目立つが、柚葉は『首締められた跡を見せびらかすよりはマシだろ』と包帯を巻いた。
「ありがとう、柚葉」
「……大寿が、ごめん和泉」
「え?」
「花垣の件もそうだし、さっきのことだって……アタシはアンタに謝らなきゃならない。本当にごめん」
柚葉は唇を噛み締めていた。
今にも泣きそうな表情に、苦しげに揺れている瞳。
その表情に和泉は眉を寄せながらも、柚葉の頭を優しく撫でた。
「柚葉が謝る必要は無い。武道の事だって柚葉が悪いわけじゃない。悪いのは全て……柴大寿だ」
何とかしなければならない。
八戒の事もそうが、和泉が黒龍に入らなければ武道が危険でもある。
どうするべきか……和泉は悩みながらも、包帯が巻かれた首を撫でた。
今の黒龍に入る気はさらさらない。
だが、黒龍に入らなければ武道が危険でもある……と思いながら和泉は八戒へと視線を向ける。
(いや……黒龍に入れば、武道が言っていた未来を変えれるかとしれない。八戒が大寿を殺すのを止めれるかもしれない)
だが、東卍に入ったばかりなのに直ぐに黒龍に移籍するのもどうだろうか。
それに黒龍に入れば、三ツ谷達と関われなくなる可能性だってある。
(どうするべきなんだ……)
相談するべきだろうか、三ツ谷かマイキーに。
そうする事が正しいのだろうけれど、かなり言い難い内容である。
「オレが、大寿を説得するよ……和泉」
「……八戒?」
「和泉は東卍にいるべきなんだ。タカちゃんの隣にいるべきなんだ」
「……八戒、それはオマエもそうだろう」
「オレはいいんだよ」
八戒は眉を下げながら笑った。
その表情は今にも泣きそうな小さな子供のようだった。