The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第5章 聖夜決戦
出来るだけ柴大寿とは会いたくない。
どうせ勧誘の話だろうからと和泉はため息を吐き出すが、柚葉と八戒の事が気に掛かった。
大寿は兄弟であろうと、柚葉が女だろうと暴力を振るっている。
(八戒も柚葉も気になる。……気は引けるけど行ってみるか)
「武道。用事が出来たらもう行くけど、無理せず休めよ」
「あ、うん。悪ぃ、手当までしてもらって」
「別に気にすることじゃない。明日、八戒のことやこれからどうするか話そう」
「うん」
「ゆっくり休めよ」
頭を撫でてから和泉は花垣家を出た。
本当なら夕方には三ツ谷の家に行くはずだったが、メールで『行けるのは夜になるかもしれない』と伝えてから柴家へと向かった。
「アイツも諦めが悪いな」
柴大寿が勧誘しだしたのは、青宗が紹介した事からだった。
青宗は10代目の総長が出来たと和泉に嬉しげに報告しに来たのである。
その際に出会ったが、和泉が神澤家の人間と知るなりすぐ様に勧誘を始めた。
手に入れたいのだ。
神澤家の財産や地位や権力で黒龍を大きくしようとしていたのである。
「……結局、私は金と地位の為にしか必要とされないのか」
必要とせず、仲間として迎え入れてくれたのは東卍だけ。
「……黒龍なんぞに入るもんか」
憧れていて、尊敬していた黒龍は今は無い。
今あるのは穢れきって、堕ちていっただけの黒龍である。
和泉が好きだった黒龍は、今は何処にも無かった。
辺りが暗くなってきた頃。
和泉は柴家の前へと来ていた。
あの時大量にあったバイク等は無くなっており、辺りは静けさを纏っている。
「よぉ。ちゃんと来たな」
「来なかったら面倒臭いからな」
和泉を迎えたのは九井と青宗の2人。
九井はニヤリと笑みを浮かべていて、玄関の前に立っている。
どうやら和泉が来るのを外で待っていたらしい。
「ボスがお待ちだ」
玄関開けた九井はまるで執事のように腰を曲げて、中へと誘う。
和泉はそれを無視して玄関に入ると、青宗が恐らくリビングに繋がるだろう扉を開けた。
「っ、和泉!?」
中にいたのは、顔を赤く腫らして唇から血を流している柚葉と同じように殴られたあとがある八戒だった。