The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第4章 血のハロウィン
二人は怪訝そうな表情を浮かべながらも、目の前に座る。
そんな両親を見ながら息を吸うと、私はゆっくりと口を開いた。
「父さん、母さん。お二人にお話があります」
実の両親相手に話があると言うだけで、ここまで緊張するものなのだろうか。
そう思いながらも、正座して膝の上に置いた拳を握りしめる。
「俺が…いいえ。私が女として生きることを許可してほしいです」
そう告げた時だった。
パンッ!!と乾いた破裂音が聞こえて、じわりと右頬に鋭い痛みが広がる。
その痛みに眉を寄せながら視線を父さんへと向ければ、焦ったような驚いたような表情を浮かべていた。
「何をッ…言っているんだ、お前はッ!?」
「女として生きる許可をください…と言っただけですよ」
そう告げた時、父さんの手が振り上がった。
だが痛みが来ることはなく、父さんの腕を隆さんが掴んでいた。
彼の横顔は怒りが篭っていて、その表情に驚いてしまっていれば祐介おじさんが立ち上がり携帯の画面を見せている。
「お前が和泉へと手を挙げた動画を収めている」
「はっ…?」
「父さん。私だってなんの考えもなく言っているわけじゃないんですよ。もし、私の願いを聞いてくれなければ、この動画を神澤家と取引している会社にばら撒きます」
「…脅しているのか、和泉ッ」
そう、これが私の計画だ。
祐介おじさんと由香おばさんがそれぞれ、私が父さん達に『女として生きる許可』を取っている動画を撮影してもらう。
そして父さんが私へと手を挙げた所も動画で収めて貰い、それを餌として脅して承諾させるというものだ。
滅茶苦茶だろう。
そう言われるかもしれないけど、この方法でしか女として生きる許可は取れないと分かっていたのだ。
「どうします?この動画をばら撒けば一瞬で神澤家の名声は廃るでしょうね…」
ニヤリと笑っていれば、父さんは唇を噛み締めながらも隆さんの手を振りほどいた。
「そこまでして、女として生きたい理由が出来たのか」
「はい。好きな人の隣で、偽った自分じゃなくて本当の自分として生きたくなったんです。それに、亡くなった大切な幼なじみともう自分を偽らないと約束したので…」
私の言葉に隆さんが微かに目を見開かせていたのが見えた。