The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第4章 血のハロウィン
皿洗いする水の音と食器の音とテレビの音だけ。
泣いたせいなのか少しボーとしてしまい、三ツ谷先輩の後ろ姿を眺めていた。
すると視線を感じたのか三ツ谷先輩がゆっくりと振り向く。
「どうした?」
「あ…いや、なんでもないです」
「……目、ちょっと腫れてんな」
「え…」
「ちょっと待ってな」
なんだろうかと思いながら、三ツ谷先輩の背中を追っていけばタオルを何故か濡らし始める。
そして絞り終わるとこちらにやって来て目元にタオルを優しく当ててきた。
ひんやりとしたタオルは存外気持ち良く、だけど突然の事に驚いていれば三ツ谷先輩は柔らかい笑みを浮かべた。
そして頭をまた数回撫でてくる。
「ちょっと冷やせば腫れも落ち着くだろうからな。少しの間こうして当てておけよ?」
「あ、ありがとうございます…」
「ん、どういたしまして」
それだけを言うとまた三ツ谷先輩は台所へ。
目の腫れに気付いているという事は恐らく泣いた事はバレている筈。
だけど三ツ谷先輩はその事については何も聞いてはこない…でも心配はしてくれた。
(前もそうだ……心配して気にするけど、深くは入り込んでこなくて俺の様子を見て話を聞いてきてくれる)
優しいんだ、三ツ谷先輩は。
きっと俺が深く入り込んで欲しくない事を察している…何となくその感じはしていた。
優しいけれど俺が嫌だということをしない…それでも心配してくれる三ツ谷先輩がやっぱり……
「好きだなぁ……」
「……え」
ポチャン……と水が落ちるだけの音が響く。
三ツ谷先輩は驚いた顔で俺を見てきて、直ぐに何があったかを察して俺は口を自分の手で抑えた。
一気に顔は真っ赤になっているのか熱くなり勢いよく立ち上がる。
「和泉……今、さっき」
「な、なんでもないです!!!なんでもないですから!!お、俺帰ります!!」
「え!?あ、おい!!和泉!」
「すみません!!」
「待てって、和泉!!」
逃げようとした時にはもう既に遅く、手首を三ツ谷先輩に掴まれていて壁に背中を押し付けられていた。
目の前には焦ったような顔をした三ツ谷先輩がいて、思わず視線を逸らしてから目を閉じる。
「和泉……」
困ったような声で名前を呼ばれてしまい肩が跳ねてしまい、それでも目は開けなかった。