The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第4章 血のハロウィン
「お待たせ。ペヤング一つしかなかったから、交互で食べようぜ」
「うん。それは良いけど……けーすけくん、箸もう一膳貰っていい?」
「……あ」
ペヤングを持ってきたけーすけの手にある箸は一膳だけ。
なのでもう一膳貰おうと思いそう聞くと、何故かけーすけくんは驚いたような表情をした。
だがその表情は直ぐに険しいようなモノになり、眉間に皺が寄っている。
「チッ……癖が」
「癖?……もしかして、誰かと箸一膳だけで交互に食べてたりしてたの?」
「……別に。悪ぃ、箸持ってくる」
当たったかもしれない。
誰かとよく箸一膳でペヤングを交互に食べていた…だから癖が出たのだろう。
もしかしたら恋人かと思ったが、あのけーすけくんに女が出来るとは考えにくい。
それか松野。
三ツ谷先輩からは、松野はけーすけくんに対して犬のような忠誠心を持ってるしよく2人で遊んでいるとは聞いていた。
なので松野が相手かもしれない。
「ん、箸」
「ありがとう。ねぇ、けーすけくんさ…もしかして松野とよくこうしてペヤング交互に食べてたりした?」
「知らねぇよ、あんなクソガキ」
「……そっか」
捨て吐くような台詞に、なんとも言えない空気になる。
恐らく相手は松野なんだろうなと思いながら、けーすけくんはペヤングを受け取りソースが絡んだ麺を啜った。
久しぶりに食べるペヤングの味は普通に美味しい。
「……なぁ和泉。お前、何時まで男装続けるつもりだぁ?」
「……何時までって…」
「何時までも男装して、家の奴らに囚われんだよ」
「別に、囚われてない……」
「じゃあ、何に囚われてんだよ」
何に囚われている?
別に何にも囚われていない…それに男装は一生続けなきゃいけない。
これは決まってる事で囚われていない…。
「なんでお前、そんなに必死になって男装して家継ごうとしてんの?」
「家、継がなきゃ……おばさんに、恩返し…できない。約束が…」
「おばさんが男装して家継げって言ったのか?」
「ちが、う…けど…継がなきゃ」
「じゃあなんで…昔からっその理由に縋って、男装してんだよ。お前は」
言葉が詰まる。
だけど俺は家を継がなきゃ…約束をしたから、家を継ぐという約束を。
おばさんと約束したんだ。
それに家を継がなきゃ罪滅ぼしもできない、罪を償うことも出来ない。