The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第1章 泣き虫ヒーロー誕生
そして歩いていく橘に佐野が『バイバーイ』と言っており、彼女は何度か頭を下げながら昇降口へと入っていく。
小さなその後ろ姿を見送っていれば佐野は歩きだした。
「いいコじゃん。滅多にいねーよあんなコ」
「あ」
「大事にしてやれよ」
佐野はそう静かに言う。
その言葉と表情はあのキヨマサを殴っていた同一人物とは思えず首を少し傾けた。
すると佐野はゆっくりと歩きだし、門の前に止めていた自転車に近づくと武道の方を見る。
そしてニコーと笑みを浮かべた。
「タケミっち、運転してよ」
「え!?」
「イズミっちはオレの後ろに乗れよー」
「え…」
「あからさまに嫌そうな顔してんじゃねぇよ。お前結構失礼だよな」
「すいません。素直なあまりに」
「嫌味にしか聞こえねぇわ」
そんなこんなで武道は佐野を後ろキャリアーに乗せて自転車を漕ぎだし、俺は龍宮寺が漕ぐ自転車のキャリアーに乗っていた。
(にしても考えられないな…ああいう顔を見ると)
佐野の無邪気そうに笑う表情や、喧嘩賭博を下らないと言ったり女を殴らないと言う言葉。
武道から聞いた12年後の東京卍會のアタマとは思えない。
12年後の東京卍會は賭博・詐欺・強姦・殺人。
なんでもありの犯罪組織と聞いてそれを頭に入れておいたが、これを見ると困惑する。
「にしてもさーイズミっちも無茶しちゃダメだよ?」
「え?」
「女の子なんだからさ」
「え!?」
武道の驚いた声を耳にしながら、目をゆっくりと見開かせながら佐野の後ろ姿を見た。
すると彼はゆっくりと顔だけで振り返り微笑む。
「なんで…」
「昨日ね、ケンチンが言ったんだよ。男のナリをしてるけど女だって。ね!ケンチン」
「おー。まず喉仏はねぇし、声が男にしては妙に高めだしな。でもそういう男はいるけど…その表情からして当たりのようだな」
カマをかけられたか。
そう思いながら無表情で此方を振り返る龍宮寺を見ていると、笑っていて俺を顔を見ると視線を前に戻した。
だがまさか気づかれるとは。
そう思っていれば佐野がまた此方を振り返ってから、柔い笑みを浮かべた。
「無茶はしてませんが」
「いやいや、無茶してるって。まさかケンチンに殴りかかったり、オレに殴りかかるとは思わなったなー。そのぐらいタケミっちとヒナちゃん大切なんだね」