The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第1章 泣き虫ヒーロー誕生
「それでは」
「和泉!!」
「……普段、貴方方の言いつけを守ってきているんです。俺が何をしようが、何処に行こうか自由にさせてくれませんか?」
そう無表情で言うと玄関のガラガラッと音を立てながら開けて、母さんの方に振り返る事無く扉を閉めた。
追いかけて来る様子も無いのを確認すると、ゆっくりと歩いていきこれまた馬鹿みたいにデカい門を潜る。
因みにだ。
先程から『俺』という一人称を使っているが、自分は体も戸籍も女である。
「はぁ……。ホント疲れるな」
俺は親族達に女で生きることをTABOOとされている。
もし少しでも、女のような格好や言葉使いなどを使えば普通に拳やら蹴りやらが飛んでくるのだ。
「面倒な家に、産まれてきたなぁ」
神澤家。
俺の家は古くから続く名家とも言える家系であり、『和菓子工業』を営んでいる。
古くから天皇一族に献上したり、また親族達は政治家に警察やら刑事やら色んな力や権力を持つ地位にいた。
そんな神澤家にはかなり変な掟がある。
もし当主の長子が女であれば、男として育て生かせろという物だ。
そして俺は現当主の長子で長女であるが為に男として生きている。
(確か男尊女卑が結構古くからある家だからな…だから当主は絶対男であり当主の子。そして分家の子が当主になるのは嫌がるんだよなぁ)
「今考えればヤバい家だな……」
呆れながら苦笑を零しながら、とある家の前を通り過ぎようとした足を止めた。
その家の玄関前に誰かが項垂れて座っているからであり、直ぐに誰か分かり溜息を零す。
「武道!」
「っ!?」
「お前、何こんな所で座ってるんだよ…って、怪我だらけだし……また喧嘩したのか?」
「……和泉?」
玄関前に座っていたのは、あの幼馴染の花垣武道。
顔は殴られて血があちこちに付着している姿に、眉間に皺を寄せながら顔を顰めた。
「そんなボロボロになって…またおばさん泣かすつもりか?というか、無茶するなって何度言わせれば気が済むんだ?お前は……そのウチ大怪我して入院とかなってもしらねぇからなっ……聞いてんのか?」
「和泉っっ…!」
「うおっ!?」
すると当然武道が抱き着いてきて、その反動に耐えれずに体が後ろへと傾いた。
そしてそのまま俺はアスファルトに尻もちをつく。