The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第1章 泣き虫ヒーロー誕生
『和泉はアンタ達のお人形さんじゃないんだ!!』
両手を広げてそう親族に怒ってくれた
涙いっぱいを溜めて、きっと沢山の大人がいる中でそう怒るのは怖っただろうに……
幼馴染の君は
私の為に一生懸命に怒ってくれて守ってくれた
それからだった
君が大切なヒーローになったのは
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ー2005年 7月6日ー
ふとシャーペンを持ち数学の予習していた腕が止まる。
そしてまだうんと幼い頃、幼馴染が私を……いや俺を守ろうと一生懸命になっていた光景を思い出した。
昔の事を思い出したのは勉強に飽きたからなのだろうか、と思いながらシャーペンを転がす。
「懐かしいな……。ははっ」
あの日の光景。
あれは赤ん坊の時からの幼馴染である『花垣武道』が、果敢にも俺の親族達に立ち向かった時である。
涙いっぱい溜めていたのに一生懸命俺の為に怒ってくれた。
それ以来アイツは俺のヒーロー。
泣き虫で、何処か頼りなくて喧嘩が弱いけど誰よりも困っている人を見捨てないヒーローなのだ。
「ヒーロー、だけどなぁ……。なぁんで、不良の方に走っちゃったかなぁ?」
武道は現在不良である。
一緒に通っている大溝口中学校で、溝中五人衆だったかな?そんなチームでのNo.2をしているのだ。
まぁ喧嘩は糞みたいに全員弱いけど。
(金髪にダサいリーゼントにボンタン。おばさん、すごい呆れてたなぁ。俺もだけど)
椅子に背を預けながら、幼馴染のダサい姿を思い出してクスッと思わず笑う。
そして一度勉強から脳が離れていくと、もう予習のやる気が失せてしまった。
「……コンビニか、武道の家に行くかな」
そう決めたら善は急げとかなんとか。
俺は椅子から立ち上がり、ジャージのズボンに財布と携帯に充電器を突っ込むと部屋から出る。
馬鹿みたいに長い廊下を歩いていき、玄関に差し掛かるかと思った時である。
最悪な人物と鉢合わせしてしまい、思わず顔を顰めてしまった。
「また、こんな時間に外出ですか」
「……そうですけど、何か?」
「何処に行くと言うのですか」
「それは、母さんに言う必要はあるでしょうか?」
鉢合わせしたのは俺の母親である美里。
眉を釣りあげて、俺に対して圧を込めながら睨めつけてくるが俺はそれを無視して背中を向けて玄関に降りて靴をはきはじめた。