The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第1章 泣き虫ヒーロー誕生
橘は武道と俺を守ろうとしている。
きっと俺らが佐野万次郎達に連れ去られると思ったのだろう。
それにさっきから彼女の細い手は震えている。
「ヒナが守ってあげる」
「ヒナ…」
怖いだろうに。
あの見た目ならば近付くことさえ恐怖だろうに、普通ならば彼氏が連れ去られそうになっていてもこんな風に守ろうとはしない。
人間誰しも自分の安全が第1優先。
他人の事なんて気にしている余裕なんて無いのが多いが、この子は違う。
(やっぱり橘は守らなきゃならない存在だ。武道の傍にいてあげてほしい子)
ならばこの子の為に佐野万次郎達と近づかなければいけない。
12年後の未来でこの子が武道の傍で、優しいあの笑顔を浮かべている未来にしなければ。
「オイ…殺すぞガキ」
すると橘の腕を龍宮寺堅が掴む。
目線を上に上げれば見下ろしながら橘を睨んでおり、一気に眉間に皺を寄せた。
「いきなりぶん殴って、ハイサヨナラ?ふざけんなよコラ」
「ふざけているのはどっちですか?」
「あ…?」
「他校に入ってきて、無理矢理連れ去るのは友達のする事じゃありません。最近のタケミチ君はケガばっかり…もしそれがアナタたちのせいなら私が許しません」
怖いだろうに橘は龍宮寺の目を真っ直ぐに見る。
こんなカッコイイ女どこを探してもいない…武道は良い子を彼女にしたなと笑みを浮かべた。
「カッコイイぜ、橘」
「え?」
「やっぱり橘が武道の恋人で良かった」
すると武道が龍宮寺の肩を掴む。
そして俺は真っ直ぐに龍宮寺の事を睨みつけていれば、地を這うような重低音にも近い声を出した。
「あ?」
「その手を離せ…」
「何言ってんのか聞こえねーよ」
「その手を離せって言ってんだよ!!バカ野郎!!」
「テメー。誰に向かって口きいてんだ!?」
「もう二度と譲れねぇモンがあんだよ」
武道は自分を最低なヤツと言っていた。
でも全然そうじゃない…大切な人の為ならばこうして恐怖の相手にでも立ち向かえるヒーロー。
俺はまたニッと笑うと龍宮寺に向かって腕を振り上げ、そのまま腕に力をこめてから殴りかかった。
まぁ勿論龍宮寺は俺の殴りを腕でガードしたけど。
「和泉!?」
「テメェ…何すんだゴラ」
「見てわからねぇのかよ。幼馴染とその幼馴染の大切な子を守る為に殴ったんだよ阿呆が」