The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第1章 泣き虫ヒーロー誕生
「勝手にウィッグとんな」
「オレ、髪短い和泉も好きだけど…地毛のこの長い方も好きだな」
修二は長い漆黒の髪の毛を指に絡ませていた。
この漆黒の長髪は私の地毛であり、普段は短髪のウィッグを付けているのだ。
長い髪の毛はちゃんと手入れをしている。
昔従姉妹に『髪の毛は女の命だから大切にね』と言われて、唯一許された女らしい物。
「小さい頃も言ってたな」
「和泉、上向け」
「あ?…んっ」
すると修二の唇が俺の唇に触れる。
押し付けられるような触れるだけのキス……そこに恋愛感情はない。
正しくは俺には恋愛感情はない…だけど。
そう思いながら唇にガリッと噛み付けば、直ぐに修二の唇は離れるが下唇に血が滲んでいた。
だが修二は怒る事無くペロッと唇を舐める。
「お前、同意無しのキスはわいせつ罪だからな」
「折角こーいう事慣らしてやろうと思ったのにな」
「慣らそうとすんな。余計なお世話だアホ」
「でも、こんままじゃ恋人出来てもキスもセックスも出来ねぇぞ?」
デリカシーの無い奴。
そう思いながら唯一固定されていない足を上げて、金的蹴でもしようかと足を上げた時である。
「おっと…危ねぇなぁ」
「ちっ」
「お前、オレの使い物にならねぇようにするつもりかぁ?」
「丁度良いんじゃねぇの?ていうか離せ」
怒気を孕んだ目で睨みあげれば、修二は肩を竦めて大人しく両腕を離した。
開放された腕を下げながらウィッグを外された事で、外に顕になった髪の毛に触れる。
「なぁ和泉」
「なに」
「オレの方に来てくれたら、あの家から出してやれるぜ?だから来いよ」
修二の方を見れば何時もの笑みを浮かべていない。
真剣な瞳で金色の瞳が月のようだな…なんて思いながら見つめていたが俺は首を横に振る。
あの家を出れたら自由なんだろう。
でも俺はあの家にいて、跡を継いで当主にならないといけないのだ。
「俺はやらなきゃいけない事があるから良い。でも、ありがとうな修二」
「籠の鳥のまんまってか?」
「俺はそれで良い。その生き方しかできないし、別にそこまでの籠の鳥って訳じゃないしな。勉強と当主になる為の仕事してれば後は自由にさせてくれているし……」
だから家を捨てる事はしない。
でも修二の俺を助けようとしてくれるのは嬉しいけどな。