The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第3章 8・3抗争
「なんで、こんな緊張するのかな」
ポツリと呟きながら俺は立ち止まる。
目の前には少年院であり、白くそして黒く汚れた大きな壁の高さはとてもつない。
緊張はこの暑さの中でも体温を下がらせていく。
深く深く息を吐いてから、少年院の中へと入っていき受け付けで手続きを済ませた。
「暫くお待ちください」
「はい…」
看守の男に面会室に案内されてパイプ椅子に腰をかける。
座れば目の前にアクリル板があり、そしてパイプ椅子もありそれを見ながら瞳を閉じた。
「入れ」
「っ!」
「…久しぶりだな、和泉」
「秋、にぃ……」
濡羽色の髪の毛と、空色の瞳。
そして鳴海ねぇと似たその顔……今俺の目の前にいるのは、従兄弟であり鳴海ねぇと弟である秋にぃこと神澤秋哉がパイプ椅子に腰掛けていた。
秋にぃは少年院に入ってもうすぐ3年になる。
そして少年院に入る事になったのは、俺のせいであった。
俺のせいでこのアクリル板の向こうに。
「んな、泣きそうな顔するな。言ったろ?オレがここに入る事になったのはお前のせいじゃな」
「……うん」
「それより元気だったか?」
「うん…、秋にぃは?」
「元気だ。…もうすぐで刑期も終わって出られる…だから、それまで待ってくれ。出たら必ず迎えに行ってやるから、あの家を出れるようにオレがなんとかするからな」
秋にぃは真剣な表情でそう伝えてきた。
だが俺は頷けずに、ただただ顔を俯かせて視線を床へと投げてしまう。
「……でもまぁ、和泉が元気そうで良かった。今の時期お前は苦手だろ?だからってクーラー効いてる部屋ばっかにいるなよ。体に悪いからな」
「分かってる」
「ホントにか?お前、クーラーの温度下げすぎて、すぐ風邪引くんだから気を付けろよ」
「秋にぃ、俺の事子供扱いしすぎ。もうオレ14だよ?」
秋にぃは俺の事をかなり子供扱いしてくる。
そして無茶な守り方をしてくるのだ…だからあの時秋にぃは人を殺してしまった。
殺してしまったからこうして少年院に入れられたのだ。
(だけど、私を守ったという事もあって刑期は短い…。でも結局は俺のせいで)
そう思うと申し訳なくて、唇を噛み締めていればじんわりと口の中に鉄錆の血の味が小さく広がる。
すると秋にぃが小さく笑う声がした。
「和泉」