The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第3章 8・3抗争
抱き締められる力は緩い。
だけどつい和泉が逃げ出しそうになり、身を捩るがそれを許さんとばかりに抱きしめられた。
目の前に広がる三ツ谷の服。
そして鼻腔を擽る彼の匂いに、和泉は何故か体の力が少しずつ抜けていた。
「気が付いてないかもしれねぇけど、ずっと泣きそうな顔してたぞ」
「……俺が、ですか…?」
「そ、お前が。だったら放置できなくてな…ほらハグは辛さを半減したりストレスを半減するだろ?」
「三ツ谷…先輩……」
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ー和泉sideー
不思議だ。
こうやって抱き締められる事は、武道や修二以外の人間は嫌で堪らなかった。
なのに何故か三ツ谷先輩に抱き締められるのは嫌じゃない。
なんでこの人はこうも、不思議な気分にさせてくるのだろうか。
自分を乱されているのに、半分ぐらい心の中踏み込まれている気がするのに嫌じゃないのが不思議だ。
「一つ、聞いてもいいか?」
「なんですか…?」
「タケミっちが、パーちんに蹴られて倒れた時とさっき病院でタケミっちを見てた時すげぇ泣きそうな顔してたけど……何か訳があるのか?」
その言葉にピクッと体が動く。
俺はそんなに表情に出していたのだろうか…と思いながら目を閉じればあの光景が思い浮かぶ。
「俺、大切な人が傷付くの嫌いなんです」
「ん…」
「鳴海ねぇが死んだ時から、誰かが倒れたり傷付いたり怪我して病院に運ばれる。そういうの全部が嫌で、怖くて堪らなくて……」
「そうだったんだな……」
「だから、武道が病院に運ばれたって連絡があった時凄い怖くて……」
「今も、怖い?」
その問に俺は小さく頷く。
不思議と怖さは消えていて、心がスーとしているというか気分が良いというか。
「三ツ谷先輩って不思議な人ですよね……」
「え?」
「不思議過ぎて、逆に不気味」
「え、なんか酷くねぇ?」
そう言いながら三ツ谷先輩はギューギューと抱き締めてくる。
痛くないのに力強くて夏だから、体温が上昇して暑いのにそれが嫌じゃない。
「落ち着いた?」
「はい…ありがとうございます」
「ん、じゃあゼリー食おうぜ。結構上手く出来たんだよなー。前作った奴もルナマナには好評だったけどな」
「そうなんですね」
「和泉も気に入ってくれるといいけどな」