The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第3章 8・3抗争
普通の家庭なら、両親とこうして会話をするのかな。
なんて思いながら俺は部屋に戻るために、長い長い廊下を歩いていく。
歩けば歩く程煩い声は遠のいていくから、少し楽になる。
「また夜遊びか?和泉」
「……父さん。ただいま帰りました」
最悪だ。
まさかの父親であり、この神澤家現当主・勝昭と鉢合わせしてしまった。
なんで居間に居ないんだよと思いながら頭を下げる。
月見でもしていたのか。
そう思いながら、ゆっくりと頭を上げてから父さんの顔を見る。
「男の所でもいたのか?…まぁ男遊びでも好きにしてもいい…勉学に励み跡継ぎの勉強さえしていれば」
「…父さん。1つお聞きしても良いでしょうか」
「なんだ」
「俺が跡を継いだとして、その次の跡取りはどうするおつもりなんでしょうか」
前から思っていた。
俺が女でいる事がTABOOならば、俺の次の跡取りはどうするのだろうかと。
「良家の次男と結婚してもらう。相手に男でいる事を説明して、お前が子供を産む。だから表ではお前は女と結婚していたが死別としておいても良いだろう。お前は決して女で居ることはダメだ。分かったな」
「はい」
「だがまぁ、お前が選んだ男でもいい。でもお前を理解して、男で居ることを理解してお前を選ぶ男がいればの話だがな」
それだけを言うと父さんは歩いて消えていく。
聞こえてくる足音を背後に感じながら、目線を床へと投げた。
父さんの言う通り、俺を理解して俺を男で居ることを理解してくれる人間なんているのだろうか。
いや居ないだろう…少なくとも俺と結婚したやつなんで金と地位目的しかいない。
(でも……三ツ谷先輩なら理解してくれそう)
ふと何故か三ツ谷先輩を思い浮かべてしまい、大きく目を見開かせた。
なんで…なんで三ツ谷先輩を思い浮かべた?
「……っは。何、考えてんだ俺?」
三ツ谷先輩とはただの知人。
大体まだ会って3日しか経っていないし、それに三ツ谷先輩の隣に立つ人はきっと何でもこなせる女でいられる人。
「思い上がるなよ、俺……」
でもきっと、三ツ谷先輩なら理解してくれそう。
俺の事を理解してくれそうなんだと、思ってしまうのは何故だろうか。
あの人と会ってから本当に可笑しい。
自分のナカを乱されている気がして、でも不愉快じゃないのだから。