The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第3章 8・3抗争
「龍宮寺先輩が…俺に何を期待しているのか分かりませんが、俺はそんな大した力なんて持ってませんよ」
「そうかな?」
「……それより龍宮寺先輩ってエマ、好きなんですよね」
「なっ!?」
話を変えようと思い、エマの話をふると龍宮寺先輩が目を大きく見開かせた。
成程佐野先輩の話は本当のようらしく、何処と無く焦っているのが分かる。
でも龍宮寺先輩ならエマを大事にしそう。
人柄からもそういう感じは分かるけど、何となく複雑な気分なのだ。
「俺、エマに悪い虫着くの嫌いなんですよね。昔っから」
「え、あ……そうなんだな」
「エマって可愛いじゃないですか。だからよく変な男が寄ってきたり、ホテル街に連れ込もうとする奴もいたんですよ。その度に俺が殴り飛ばしたりとかしてたんですよね」
「お、お…おう」
「龍宮寺先輩は、どうなんでしょうね」
含みのある言葉と笑みを浮かべる。
たじろいでいる龍宮寺先輩は面白く感じてしまい、少し揶揄い過ぎたかなと思った。
「あ、ここで大丈夫です」
「え?良いのか?」
「はい。送って下さってありがとうございました」
「イズミっち!東卍に入るの、本気で考えてくれよ」
「武道が入るなら、俺も入りますよ」
それだけを言うと俺は家の門を潜った。
静まり返った家は何処が薄気味悪くて、幼少期は怖がっていた記憶がある。
バカ広い日本屋敷とバカ広い庭園のような庭。
そしてこの家にはおよそ15人の本家親族が暮らしているのだが、15人が住むには広すぎる家。
(この家を、出れたらな……)
出れたなら自由なんだろう。
もしおばさんが生きていれば、俺は……と考えそうになり直ぐにその思考を捨てる。
「もしなんて話は、しても意味は無い」
ガラッと引戸式の玄関開けて、靴を脱いでから中に入れば居間から声が聞こえて思わず舌打ちをした。
寝てない、そして酒が入っているのは明日が休日でもあるからだろう。
「お帰りなさいませ。和泉様」
「吉塚さん…。ただいま」
「お夕飯は食べましたか?」
「はい…済ませました。あと暫くは夕飯、いつも通り要りませんので」
「了解しました。もうお休みになられるのですよね?お休みなさいませ」
「おやすみなさい」
ただいま、おはよう、おやすみ。
こんな会話をするのは家の中では吉塚さんだけ。