The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第3章 8・3抗争
「……すみません、電話出てきます。昼ごはんは先に食べてていいです」
「おう…」
携帯のディスプレイを見た瞬間、和泉の表情は何処と無くドッと疲れていた。
誰からの電話なのだろうかと気になったが、取り敢えず焼きそば作りの最後を取り掛かる。
一方電話を手にして、家から出た和泉は未だに鳴り響く着信音に溜息を零した。
ディスプレイに表示されているのは、『青宗』という名前。
「もしもし、何?」
『東京卍會に入るのか?』
「…またその話か」
『昨日、東京卍會の三ツ谷といたろ。というか、オレらに気付いてたろ』
「そうだけど、それがどうした?」
『黒龍には、入ってくれねぇの?』
「入らない。いい加減執拗いぞ、青宗……もう切るからな」
もし、黒龍が汚いことに手を染めていなかったら。
もし、黒龍が初代の時のような人間ならば和泉も入る事は悩んでいただろう。
だが今の10代目黒龍は好きではない。
なんなら8代目の時から和泉は黒龍は好きではなくなっていた。
『和泉っ』
名前を呼ばれたが和泉は電話を切る。
そして深い深い溜息を零しながら、髪の毛をかきあげてから目を細めた。
「穢れてなかったら…入ってたかもな」
その言葉は誰にも届かない。
電話をかけてきた青宗にも、家にいる三ツ谷達にも誰にも聞こえなかった。
電話をポケットに収めると和泉は玄関を開ける。
するとオイスターソースの匂いがふわりと香ってきて、昼ごはんを食べていない空腹の腹がキュルッと小さく鳴った。
「お、戻ってきた」
「……食べてなかったんですか?」
「おう!ほら、早く食おうぜ」
食卓に並んでいる焼きそば。
先に食べていいと伝えていたのに、三ツ谷達は和泉が戻ってくるのを待っていた。
「全員で食べた方が美味いだろ?」
「……そう、ですね」
「お姉ちゃん早く!早く!!」
「ここ座って!!ほら!!」
全員で食べるのは美味しい…か。
和泉は少し困ったように笑いながら座りながら、自分の家と大違いな考え方に思わず苦笑してしまう。
あの家は自分がいようがいまいが関係ない。
食事も一緒に取るなんてなく、話さえしないぐらいの家なのだから。
「「「「「いただきます」」」」」