The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第2章 東京卍會
椿油を髪の毛に塗る。
ふわりと香る椿の匂いは、何処か自分自身を安心させてくれる物があった。
「風呂上がったよー」
「じゃあオレも入ってこよ」
部屋に戻り声をかければ武道は自分の着替えを持って、2階へと降りていく。
それを見送った俺は部屋を見渡しながら、いつの間にか敷かれていた敷布団の上に座った。
久しぶりに来た武道の部屋。
特に変わりはないな…なんて思いながらふと本棚へと目線がいく。
「アルバム…」
分厚いアルバムを手にする。
そしてゆっくりと開いていけば、つるりとしたビニールに覆われている写真達があった。
「……懐かしいな」
写真には一緒のベビーベッドに寝かさている赤子2人。
その2人は俺と武道であり、父親同士が幼馴染で家が近所だったからこうして武道のアルバムに俺がよく写っていた。
赤ん坊の頃、幼稚園、年長。
小学生という成長ページをめくる度に現れて、そしてある1枚の写真を見て動きが止まった。
「鳴海ねぇ…おばさん……」
武道と私。
そして武道の両親に、従姉妹である鳴海ねぇと叔母の由良さんが写っている写真。
まるで家族写真のようだ。
「この時はまだ、良かったな」
幸せだった頃の写真。
俺が何もまだ失っていない時であり、俺が多少俺で居られた時の頃。
そしてページをまた捲れば、中学の入学式の写真が現れて思わず笑った。
武道と俺は何にも変わっていないのだから。
「アルバム見てんの?」
「ん?うん…懐かしいなぁって思ってさ。にしても相変わらずアルバムの冊数がやばい。分厚いのに」
「母さんと由良おばさん、写真撮るの好きだったからな」
風呂から上がってきた武道は、苦笑を浮かべながら歩いてきてアルバムを覗く。
そして俺の隣に座り込んだ。
「未来に戻った時さ…アッくんに会ってきたんだ」
「千堂に?」
「うん。実は最初のタイムリープする前には、東京卍會にアッ君はいなかった。なのに次戻ってみればいた……だからアッ君に頼んでマイキー君に会わせてもらおうとしたんだ」
武道の顔に影が現れていた。
無表情に近い、何処が悲しそうで絶望にも近い表情に思わず眉が寄る。
千堂が未来の東京卍會にいる。
それは恐く武道が、東京卍會に勧誘されて入ってから千堂も入ったのだろう。
「アッ君な、凄かった。キャバのオーナーだったんだ」