第10章 強奪する男
薄暗くひんやりとした廊下を音を立てないようにゆっくりと忍び足で歩いていく。
明かりが点々と灯してあるが地面に目を凝らさないと石畳に足が躓きそうだった。
消灯時間を過ぎているおかげか、幸い今のところすれ違う兵士はいない。
息を潜めながら進んでいくと扉から一筋の明かりが漏れ出ている部屋がある。
フィンはそっと聞き耳を立てて、通り抜けるタイミングを見計らった。
ハンジの声が途切れとぎれに聞こえる。
太く低い男性の声もうっすら混ざっている。
貫禄のある声の主は……エルヴィン団長の声だった。
話せるほど回復していることにフィンは安堵する。
部屋を通り過ぎようと静かに歩き出した時、”ノイン”の名前が会話に入っている気づく。
ピタリと足を止める。
「ノイン……任務……」
「地下街……」
「……証人……」
「……憲兵団‥‥」
うっすら聞こえる会話を繋ぎなおし意味を何となく理解する。
ノインを証人として保護しても、憲兵団に罪人として捕まる
って言う話だった。
「……フィン……」
「……俺の…訓練を……」
もう一人男性の低く淡々と話す声がする。
リヴァイの声だった。
フィンはそっと首元に巻いてあるスカーフを握りしめる。
昼間のやり取りを思い出し脳内を過ぎる。
三人の会話に耳をすませる。
エルヴィン団長は、明日の任務に
私を連れていこうとしている。
リヴァイとハンジが
反対している会話だった。
エルヴィンはフィンを連れていけば
またシャコールが狙うと読んで
フィンを囮として利用する。
酷だな……フィンは思ったが
その方がより確実だろうと自分でも納得した。
でも、この時間が惜しい。
この議論の答えを待っていられない。
一刻も早く、地下街に行きたい。
フィンは静かに扉から離れて暗く夜風が吹いている廊下を進んで行った。