第3章 堕天使の舞踏会
リヴァイがまた深い眠りについてから
世界は急ぐように動き出した。
突然、左肩に焼けるような痛みが走る。
思わず小さく唸ってその場に膝を着いた。
すぐ肩に触れてみる。
痛みが走る。
自分の手が赤く染まる。
緊張の糸が溶けたのか
今になってようやく自分が
傷を負っていたことに気づいた。
雨音が静かに鳴り響く。
包帯がわりにシャツの裾を破りとる。
痛みと肩に上手く巻くことができない。
不格好になんとか巻き、最低限の手当をする。
無理に痛めた肩をあげたせいで
痛みで頭がくらくらする。
フィンはまだ降っている雨を眺めながら、
ぼんやりと涙を浮かばせた。
どこか幸せそうに眠りについているリヴァイを
フィンは息をひそめてそっと見つめる。
世界中でただ一人、私だけが今、知っている。
一人特別な気分になって自惚れてしまう。
「わたし、ばかだなぁ…
"人類最強の男"に恋ちゃうなんて」
と小さく笑って涙が溢れ出す。
リヴァイの無防備で愛おしさを感じさせ、
フィンの胸を苦しくさせた。
ふと、昔ノインが読んでくれた絵本を思い出した。
あぁ、舞踏会からちらついてたのはノインが読んでくれた絵本だったけ‥…
住む世界の違うお姫様と王子様がいて
お姫様は泡になって
消えちゃう哀しい結末のおとぎ話……。
泡になって消えちゃった方が楽なのかな……
なんて思ってしまう。
少しの間、雨音と一緒に涙を流した。
淡々と優しく泣き声をかき消してくれる雨。
そしてもう泣くことをやめよう。と決意してフィンは空を見上げた。
暗い色の空は私の代わりに泣き続けてくれている。
雨が止んだら”この憧れ”を忘れよう。
リヴァイへ想う自分とはこの場所でお別れよう。
始まってもなかった想いなのかもしれない、
ただ、他の人たちより短い寿命の想いを持っただけ。
そうだ、これはただの勘違いだったんだ。
そんな風に思って忘れよう。
決意とは裏腹に
「雨がずっと降ってくれればいいのに」
と叶わない願いをつぶやいた。
雨音が小さな願いをかき消した。