第3章 堕天使の舞踏会
一人の豪族が突然、下衆な声をかける。
「おぉ!麗しいのう。
近くにもっと来なさいな」
と醜悪な笑いをしながら荒い息遣いが聞こえる。
ハブデインの匂いがする。
仮面をつけててもわかる中年増の醜男が
フィンに抱きつこうと近づき肩に手を触れる。
パシンッ!!!________
醜男の手を、漆黒の扇子が弾いた音が鳴り響いた。
辺りが一瞬にして静まり返る。
醜男が苦痛に歪んだ顔で
「ヒイィィィィイッ!!」
と声を張り上げる。
フィンが男を蔑むような目で見つめ、そっと口を開く。
「棘がある美しい華はお好きかしら?」
とバサッと畳み込んだ扇子を醜男に差し向ける。
醜男は赤くなった手を擦りながら
「私がだれかわかっているのか!!!
シャコール・ハイドルフだぞ!」
と声を荒げる。
ハイドルフ家といえば、貴族の中でも王政の側近にあたる
有力な権力者であり、議員だ。
その名を聞いて周りの貴族がざわざわと騒ぎだす。
シャコールは畳みかけるように
「今すぐ無礼を詫びろ!!
大勢の前で我に恥をかかせるなぞ、なんたる侮辱だ!
さもなくば貴様ら一族の称号を剥奪するぞ!」
と罵声をわめきだした。