第15章 少女の独白
馬車から細身の顎髭が生えた男性が下りてくる。
整列した憲兵団の兵士たちが
一斉に敬礼をする。
空気が張り詰める。
「ナイル。久々だな。」
とエルヴィンが下りてきた男性に手を差し伸べる。
「あぁ。エルヴィン。久しぶりだな。」
とエルヴィンの手をしっかりと握り固い握手を交わした。
ナイルという男性の視線がフィンに注がれる。
「・・・・・この女性が・・・?」
ナイルがぽかんと口を開けている。
エルヴィンがすかさず、フィンの前に立ちはだかり
「さぁ。行こう。」
と馬車に向かって歩き出す。
フィンは俯きながらエルヴィンの後ろをついて歩く。
ナイルは首をかきながら後に続いた。
エルヴィンがフィンに手を添えて先に馬車に乗りこませる。
ナイルに聴こえないように小声で
「舞踏会を思い出す。」
とつぶやく。
フィンの脳内に舞踏会でエルヴィンの手を取りリードされて躍ったことを思い出す。
エルヴィンのことを騙していたけど、二人で踊り、過ごした時間は夢のようだった。
自然とフィンが
「・・・・ですね。」
と顔をほころばせ、また視線を落とす。
俯き儚い表情を浮かべ瞳を潤ませ
”か弱い乙女”を演出する。
エルヴィンが少し驚いた顔を見せる。
ナイルが遅れて馬車に乗り込んできた。
エルヴィンの顔が固い表情に戻る。
フィンは馬車に揺られながら、
調査兵団の宿舎を眺める。
リヴァイの姿はなかった。
寂しくため息をつく。
ハンジとミケとモブリットの姿が目に入る。
がんばってと言いたげなハンジの顔。
眉間にしわを寄せながら腕組みしてミケはこちらを眺めている。
モブリットは泣き出しそうな顔をしている。
目が合う。
ナイルは顎に手を置き考えに窓の外に視線を向けているその様子をチラ見する。
フィンはモブリットに優しく微笑む。
いってきます。とモブリットに口を動かす。
モブリットは頷きながら大きく手を振ってくれた。
モブリットの笑顔と優しさには何度も心を救われた。
帰ったらモブリットにお礼がしたいな。
そう思いながら遠ざかっていく3人の姿と調査兵団の兵舎からいつもの変わらない街並みへと馬車は進む。