第10章 強奪する男
今すぐを殺さなきゃ。
身体を流れるフィンの血液が、本能がこいつ等を殺せ殺せと命令して立ち上がらせる。
女がフィンに気づき戦闘態勢をとる。
この女も邪魔するなら殺す‥…!!
両者は睨み合う。
しゃがれた声の男が
「おめぇの兄貴は俺が連れて行く。
フィンおめぇも来るか?
お前の力、歓迎するぞ。」
フィンに手を差し伸べながら話す。
ただ名前を呼ばれただけで
腸が煮えくり返るほどの憎悪で満たされた。
「・・・・殺せ。」
フィンは怒りと裏腹に
冷めた口調でつぶやく。
男が腹を抱え不気味に笑い出す。
「・・・・まぁいい。
気の強ぇ女は嫌いじゃないぜ。
今回の仕事はお前を殺すことじゃねぇ。」
じゃあな。
と男は手を振りながら歩いていく。
「待てッ!!」
一歩男に近づこうと足を出した瞬間、視界が歪んで目を開けると冷たい床がうつり出された。
身体中が痛みに悲鳴を上げている。
外れた肩と開いた傷口はズキズキと脈打ち鋭い痛みを出す。
フィンの呼吸が大きく乱れ体が震える。
金髪の女がノインのロープを切りながら
「変な動きをしたら、二人とも殺す。」
とフィンにも聞こえるように囁く。
フィンは力を振り渋って顔を上げる。
全身の力で消えた男の扉へ這いつくばろうと右手を伸ばす。
両手から溢れる赤い血はフィンの身体を滑らせて進ませなかった。
ノインはフィンに駆け寄り後ろから強く抱き寄せた。
「フィンすまない‥…」
消えそうな擦れ声で呟く。
フィンはノインに体を預けた。
嗚咽を漏らしながら子供のように叫びながら泣く。
フィンの小刻みに震える頭を撫でながら強く抱き絞め
「すまない。」
と繰り返し呟く。
なにか覚悟を決めたようにノインはフィンに
「・・・フィン、俺は行く。
この世界を盤上ごとひっくり返すために。
いつか迎えに行く……。」
と決意を込めて話した。
フィンの頬にキスを落とし
ゆっくりと体を離す。
ノインはフィンの顔を覗き込み、
悲しそうに笑ってみせた。
背後からまた口を塞がれ腐った薬品ような臭いが嗅覚を支配していく。
ノインの腕にすがろうと手を伸ばしたが届かずにフィンは深い暗闇に落ちていった。