第10章 強奪する男
「フィンもうやめろッ」
ノインが声を張り上げるがフィンにはもう聞こえない。
肩が外れフィンを抑えていた男の体勢が一瞬崩れる。
「なんだよッ。ちッ。」
男は不気味な細い腕でフィンの身体を押さえ込もうとする。
フィンは床を踏み抜く勢いで男に飛び掛かった。
フィンが動きの乱れた男の上に馬乗りになり、ひげづらの薄汚い男の顔面を右手で渾身の力で殴りつける。
「痛てぇな!!」
すぐにフィンの細い右手を掴まれて
フィンは体を投げ飛ばされた。
身体が宙に浮かび、汚れた床に叩き付けられる。
フィンは素早く起き上がり襲い掛かる体制を取り直す。
目に入った立体起動装置の元に飛び込んだ。
素早く鞘からブレードの刃を素手で掴む。
両手が赤く染まる。
「‥‥‥殺すッ!!」
フィンの口から憎悪の言葉が出る。
体勢を立て直した男に刃を振り上げながら飛び掛かった。
「ほぉ!意気がいいじゃねぇか!!」
とナイフを取り出して
フィンの振り下ろしたブレードと男のナイフが火花を散らし飛んで行った。
キィィィィンッ_____
甲高い金属音が部屋中に響き渡った。
「やめろッ!!フィンもう抵抗するな!!!」
ノインの声が聞こえる。
耳を通過するだけですぐに言葉は意味を無くす。
フィンの体中から湧き出る怒りは
フィンから冷静と視界を奪い力に変える。
ガンッ!!!
フィンの後頭部に鈍い衝撃が走る。
その場にフィンは勢いよく倒れこんだ。
「お遊び・・・過ぎ・・・。
仕事・・・終わった・・・
調査兵団が地下・・に
乗り込ん・・る・・・。」
女性の声がする。
この女に殴られたのか・・・?
ぼんやりと見えた部屋の奥には
男が血を流して項垂れている。
目から光が消え去ったシャコールだった。
フィンの視界が歪んで
意識が遠のいていく。
ノインが私の名前を呼ぶ声がする。
「フィン‥…
‥‥‥フィン‥‥‥。
‥‥‥おい‥‥‥‥
‥‥‥しっかりしろ!!フィン!」
ノインの呼び声が私の遠くなった意識を呼び戻してくれた。
でも怒りがまた湧き上がって火が出るほど体が熱く憎悪で満たれる。