第10章 強奪する男
街には、人がいない。
孤独を感じさせる街並みはフィンの不安をより仰ぎ、地下街へ足並みを急がせる。
ヤルケル区から唯一の地下街の入り口に向かって歩く。
いつも立っている強面な顔つきをした見張りのごろつき達はいない。
入り口には赤い血だまりができている。
複数と点々とある。
争いの跡を見てノインの無事を祈りながら胸が締め付けられる。
調査兵団を誘い込むためなのか、
フィン自身を誘い込む罠なのか
それともノインの血なのか、考えを走らせる。
考えたって答えは出ないんだ、先に進もう。
今こうしてる時にもノインは酷い目に合っているかもしれない。
無事でいて。
いまから私が助けに行くから。
トリガーを持つ手に力が込められる。
眉をしかめながら力強く歩き出すフィン。
数年ぶりに地下街に足を踏み入れたが何も変わっていなかった。
地下街特有の下水の異臭が鼻にまとわりつく。
顔をしかめずにいられない。
咳き込みそうになりながら、手を口元に当て歩いていく。
ハブデインを使用しているのか、
目が虚ろでそれらしい動きをしている者が何人も目に止まる。
ごく一部に、食事と物資を配ってもその場限りの救済だったと自分の無力さを思い知る。
同時にノインにハブデインを作らせたシャコールに憎悪が強まった。
必ず捕まえて兵団につきだして裁きを受けさせる。
決意を胸にどんよりとした地下街を進み歩いていく。
薄暗い地下街を進んでいくと一人のやせ細った少女がこちらに手をこまねいている。
フィンはゆっくりと顔色の悪い少女に近づく。
「……こんな時間にどうしたの?」
フィンは優しく少女に尋ねた。
少女は震えながら離さずに何もない地面を虚ろに見つめている。
怯えているみたいだ。
フィンは膝をつき少女を見上げる。
「‥…大丈夫だよ…」
優しく言葉をかける。
少女は青ざめた顔で
「……あっち……」
暗い不気味な路地を人差し指でさす少女。
フィンは路地に目を細める。
「……お姉ちゃんには何も見え」
言いかけた途端、口元を布で覆われた。
アルコールの様な薬剤の臭いに嗅覚を支配される。
口元の布を取ろうと手を動かしたが抵抗虚しくだらり。と腕は脱力してフィンの視界は真っ暗になった。