第2章 翻弄して翻弄されて
彼は、乱数さんだ。
「ていうかー、おねーさんだぁーれ? まさか、帝統の彼女、とか言わないよね?」
「あ、は、初めまして、と申します。帝統さんお借りしてます」
立ち上がってお辞儀をする。
乱数さんは同じように「どーもー」と明るく言って、お辞儀をした。
本当に間近で見れば見るほど、凄く可愛い。
「つーか、彼女じゃねぇよっ! もーいいだろっ! おら、散れ散れっ! しっしっ!」
「えー、酷いなぁー。そりゃそーか。帝統におねーさんみたいな、こーんな可愛い彼女いる訳ないもんねー?」
「どういう意味だこらぁっ! 俺だって本気出しゃ、女の一人や二人余裕だっつーんだよっ!」
「一人や……二人……」
凄い。さすが帝統さん。本気の帝統さんは、そんなに凄いのか。
「ははっ、何気に最低な発言してるー。何でおねーさんはそんなにキラキラした目で帝統を見てるのー?」
「だって、本気を出した帝統さんにそんな力があるなんて、凄いじゃないですかっ!」
「……こいつ、もしかしてアホなのか……?」
「帝統ひっどー」
「ひっどー」
乱数さんは楽しい人で、帝統さんは毎回こうやって翻弄されているみたい。
私も乱数さんと同じように並んで、同じように口にする。
楽しい。普段こんなに楽しむような事がほとんどなくて、久しぶりに声を出して笑った気がする。
嵐のように去って行った乱数さんとお別れして、帝統さんはため息を吐きながらも、呆れたようなでも優しい笑みを浮かべていた。
「楽しい人ですね、乱数さん」
「そうか? やかましいだけだろ」
文句を言いながらも、何だかんだ優しい目をしている帝統さん。
こういう仲間がいるのも、羨ましい。
「いえ、そんな。凄く楽しいです。こんなに楽しいのは、初めてです」
幼少期も、学生時代も、ちゃんとした友人がいなかった私は、それはそれは静かな生活をしていた。
こんなに賑やかなのは、初めてだから、楽しくて時間を忘れてしまう。
そこから帝統さんは、色々な場所に連れて行ってくれて、どこもかしこも初めて体験する事ばかりで、私の好奇心がどんどん刺激されていく。
そうこうしているうちに、すっかり日が暮れ始める。
「お前、まだ時間いけっか?」
「え? はい」