第2章 翻弄して翻弄されて
そういえば、さっきから足の長さが違う割には、ヒールを履いているのに、やたらと歩きやすい。
「で? どっか行きたい場所ねぇのか?」
「ありますっ!」
「即答かよ……」
昨日あまりに楽しみすぎて、色々な本を読み漁った。
この街には、私の知らないたくさんのキラキラがある。
帝統さんに合わなければ、ずっと知らなかった、知ろうとも思わなかっただろう物。
「こ、これが……あの……伝説の……」
「伝説って、何のだよ……ただのクレープだろ……」
「だってっ! こんな……こんな可愛くて、綺麗で、しかも美味しい物が、片手で食べれるなんて……画期的過ぎますっ! 考えたのは誰ですかっ!?」
「はぁ? んなもん知るか……」
一口食べると、口の中にクリームの甘い味と、イチゴの酸味がいいバランスで広がる。
美味しさを噛み締めながら食べる。けど、帝統さんはただそれを隣で座って待っている。
「あの……帝統さんは食べないんですか?」
クレープの見た目の衝撃に、すっかりそちらに意識が集中していて、帝統さんがクレープを持っていない事に気づかなかった。
「俺の事はいいから、さっさと食え」
「はい、あーん」
私が食べていない部分を差し出す。これもしてみたかった事、カップルのやる「あーん」というやつだ。
目を丸くしていた帝統さんが、少し考えた後にクレープに齧り付いた。
「うん、旨いな」
「でしょ? これは奇跡の味ですっ!」
「奇跡って、また大袈裟だなぁ……ちょっと、じっとしてろ」
帝統さんの顔が近づいて、指が私の口の端に触れた。
唇の端を拭った指を、帝統さんはあろう事か、自分の口に含んだ。
「クリーム付けて、ガキかよ」
帝統さんは、そう言ってニカッと笑った。心臓が、爆発しそうになる。
なんて酷くエッチな仕草で、あんな事をこんなにも自然にやってのけるんだ。
他の女の子にも、やっていたりするのかな。そう考えただけで、胸がチクリとした。
「あれあれー? 帝統だぁーっ!」
突然明るく高い声が耳を突く。
「げっ!?」
「げってなんだよぉー。やあやあ、こんなところでなぁーにしてるのぉー?」
ピンクの綺麗な髪をフワフワ揺らしながら、棒付きの飴を持って楽しそうに帝統さんに、後ろから抱きついていた。