第1章 自然体のあなた
両手で自分の顔を包む。
「ぶっ、あははははっ、可愛いなあんたっ、ほんと変な女」
次は可愛いだなんて、これ以上言われたら心臓が爆発してしまいそうだ。
駄目だ。今日はもう帰ろう。
「もうっ、そうやってからかってっ! 帝統さんなんて知りませんっ! 私、帰りますっ!」
「悪かったって、謝るから怒んなって」
言いながらも、まだニヤニヤ笑っている帝統さんの、悪戯な笑顔にまで心臓は反応する。
それもこれも、多分帝統さんの顔がタイプ過ぎるのが原因なんだろうと思う。
「仕方ないですね、許してあげます」
「ははは、ありがとうございます」
帝統さんは頭を下げ、白い歯を見せて無邪気に笑って見せた。
早速明日出かける約束をして、私はホテルを後にした。
その日の夜は、興奮が冷めやらなかったのか、なかなか寝付けなかったのは、言うまでもない。
翌日、私は待ち合わせ場所で、緊張しながら待っていた。
膝より少し上までの丈のワンピースに、お気に入りの靴を履いて、いつもより少し気合いを入れてしまった。
ショーウィンドウで、髪型と全身をチェックするのも忘れない。
家でも散々チェックしたけど、どれだけやっても気になってしまう。
変なところはないだろうか。
「よぉ、待たせたな」
明るく笑う帝統さんが、手を挙げて近づいてくる。
「こんにちは、帝統さん」
「おう。つか、今日何か気合い入ってね?」
「変、ですか?」
何とも読めない表情で言われ、嫌いな感じだったのだろうかと心配になる。
けれど、返ってきたのは優しい笑顔と「いーや、いいんじゃねぇの? 似合ってると思うぜ」という言葉だった。
この人の言葉は、こんなにも私の心を躍らせる。
「じゃ、行くか。何かリクエストとかあるか?」
「えっと、手を繋ぎたいですっ!」
デートと言えば、私の中のイメージは手を繋いで街を歩く、だ。
帝統さんはといえば、口をパクパクさせながら固まっている。
「あんた……ほんと突然突拍子ない事言うよなぁ……ビビるわ、マジで……」
「そうですか? デートと言えばと思ったんですが……あ、ほら、あの方達も、あそこの方もっ!」
目に入るカップル達を指さしながら、帝統さんに訴えかける。