第1章 自然体のあなた
口いっぱいに食べ物を頬張り、不思議そうな顔をこちらに向ける。
「ふふっ、食べますよ。帝統さんがあまりに美味しそうに食べるから、つい見てしまいました。あ、ちょっとじっとしてて下さい」
帝統さんの口の端についたソースを、手元にあった
ナプキンで拭う。
「さ、ささ、サンキュー……」
少し頬を赤くして、照れたのか頬を指で掻いて、目を逸らした。
改めて食べ始めた帝統さんと同じく、私も料理に手をつける。
あっという間に平らげてしまい、満足そうに手を合わせる。
「ご馳走様でしたっ! はぁー、旨かったぁー」
「満足して頂けたみたいでよかったです」
父は食事の途中で仕事が入ってしまった為、行ってしまった。
とりあえず私は帝統さんを、部屋へ案内するまでの仕事を任された。
レストランを出て、そのまま用意された車でホテルへ向かう。
「マジでお嬢様なんだなぁ」
「そう……ですね……」
「あー……悪い」
「へ?」
謝られて、目が点になる。突然の事に、変な声が出た。
「いや、お嬢様って言われんの、嫌なんだろ?」
この人は、よく人を見ているんだ。冷静に。
「そうですね。あまり、好きではないです」
昔から、私が普通に振舞っても、お金持ちのお嬢様と言われ、媚びて来る人、お金目当てに近づいてくる人、理不尽に僻みと妬みをぶつけてくる人。
私は好きで社長の娘に生まれたわけじゃないのに。
それでも私は社長の娘。どれだけ嘆いても、それを変える事は出来ない。
「でも、事実ですから、仕方ないです」
私は苦笑するしかなかった。
「そう、だよな……。事実は、受け止めるしかねぇんだ……」
遠くを見て何か思うところがあるような、そんな顔をしていた。
彼にも、何かあるんだろう。
ホテルに到着し、チェックインを済ませ、部屋へ向かう。
「このカードキーでしか、エレベーターが部屋の階へ行かないので、カードキーは失くさないように気をつけて下さいね」
「何かそう言われたら、緊張するぜ……」
「ふふ、スペアは一枚ありますけど、どうしますか?」
「じゃ……あんた、持っててくれよ」
「私が、ですか?」
失くすかもしれないからと、自信満々に言われてしまった。
不安しかない。