第1章 自然体のあなた
部屋を貸す代わりに、私はある条件を出した。
「部屋をご用意する代わりに、私とデートして下さい」
「はぁ? で、ででで、デートだぁっ!?」
「はい。私、街で遊んだ事がないので、色んな場所に連れて行って下さい。私をただ遊びに連れていくだけで、部屋が手に入るんですよ? 悪い条件ではないはずです」
頭を掻きながら悩む有栖川さんに、私はもう一押し条件を追加する。
「なんなら、ご飯も付けますっ! いかがですか?」
ニコリと笑って言う私に、有栖川さんは目の前に吊るされた餌に、明らかに惹かれている顔をしている。
多分、これで大丈夫。
「……っだあぁっ! わぁーったよ。よし、その話乗ったっ!」
思い切りそう言った有栖川さんに、私は手を差し出した。
「交渉成立ですね。よろしくお願いします、有栖川さん」
「帝統でいいぜ。こっちこそよろしくな、」
犬歯を見せてニカリと笑って名前を呼ばれ、また胸が高鳴る。
握手で握られた手が熱くて、手だけじゃなく、体も熱を帯びたみたいだった。
―――グウゥーッ……。
割と大きな音が鳴って、帝統さんが眉を下げる。
「腹……減ったぁ……」
捨て犬みたいな帝統さんに、垂れた耳と尻尾が見えた気がして、可愛くて頭を撫でたい衝動に駆られたけれど、グッと堪える。
「とりあえず、ご飯にしますか」
ちょうどお昼の時間だったので、一緒に昼食をとる事になった。
目をキラキラさせながら、ブンブンと振った尻尾が見えたのは、言うまでもない。
やっぱり私は、この人を気に入ってしまった。
この人の事を、知りたい。
昼食をとる為、最上階のレストランで、父の隣に座って、帝統さんが私の前に座った。
「さぁ、遠慮なく好きな物を頼むといい」
「ま、マジっすか? くうぅーっ! ありがてぇっ!」
「ははは、娘は君を気に入ったらしい。世間知らずな所はあるが、是非仲良くしてやってくれ」
何だかんだ言いながら、父も帝統さんを気に入って
いるみたいだ。
物凄い勢いで、来た料理を食べている顔を見ながら、私は笑う。
本当に美味しそうに食べる帝統さんが、微笑ましくて可愛くて、つい見つめてしまう。
「ん? 食わねぇのか?」