第4章 ダイスでは決まらない勝敗
誰かとぶつかって、よろける。
あ、ダメだ。意識を保っていられない。
私は、薄れゆく意識の中で、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
どれくらい眠っていたのだろう。目を開けると、見覚えのある天井が見えた。
遠くでシャワーの音がする。
だいぶ軽くなった体を、ゆっくり起こす。
「ここは……」
私の鼻が、彼の匂いを察知してしまう。
数週間とはいえ、部屋に彼の匂いが染み付いて、私の心臓をくすぐる。
バスルームの扉が開いて、タオルで頭を拭きながら出てきた帝統さんと目が合う。
「おっ! 気がついたか? 仕事終わるまで待ってたらよ、出てきたお前に声掛けようとして、追いかけてたら突然倒れるから、マジでビビったぜ……」
私を、待ってたって、何でだろう。
「お前さ、あんなフラフラな時は、家の車に来てもらうか、タクシー使えよな。ぶつかった奴等がお前を連れてこうとすっから、必死で止めたんだからな。焦ったわ……」
ベッドの傍に座り込んで、私を下から見上げる帝統さんが、その時の様子を表情をコロコロ変えながら話してくれる。
そんな彼を見ていて、私は鼻がツンとするのを感じた。
そして、気づいたら、泣いていた。
ありがとうとか、ごめんなさいとか、他にもいっぱい言いたい事があるのに、言葉にならずに、全てが嗚咽に変わる。
「お、おいっ、泣くなよ……そんな怖かったのか?」
私の隣に来て、ベッドに腰掛け、抱き寄せて頭を撫でてくれる。
今以上に彼をもっともっと好きになって、それを拒否されてしまうのが怖くて、どんどん臆病になっていく。
私は、帝統さんから体を離して、口を開く。目が見れないから、俯いたまま。
「私が言った勝負、私の負けでいいので……やめてもいいですか?」
これ以上好きにならないように、無理やりにでも、諦めて、身を引くんだ。
これは逃げだ。今の私には、立ち向かう勇気も、体力もない。
「たくさん、迷惑かけてすみませんでした。私が今まで言った事は……忘れて下さい」
早くここからいなくなりたい。
ベッドから降りて、目に入ってきた荷物を取ろうと近寄るけれど、帝統さんがそれを許さなかった。
「そんな勝手な事、許すわけねぇだろ」
掴まれた手首を、引っ張られる。