第3章 幕は切って落とされた
幼い頃から、ずっと私を守ってくれて、可愛がってくれた優しい兄。
少し過保護なところもあるけれど、大好きな人だ。
「、今日は髪型が違うな。髪を少し巻いたのか? 一段と可愛さが増していて、ポケットに入れて持ち歩きたいくらいだ」
髪に触れて優しく笑う兄に、私も笑顔を返す。
忙しくてなかなか会えないけれど、会えば必ず私に構ってくれる。
兄の仕事について回り、気づけば一日はあっという間で。
「もうお別れなのは、悲しいな」
「今日も遅いの? そうだとしても、また明日も会えるし」
「あー、離れ難いな……俺の可愛い」
兄は私を抱きしめて、頭に頬を擦り付けて嘆く。
「大袈裟だなぁ。ほら、早くお仕事戻らないと、秘書さん困っちゃうよ」
渋々私を離し、頭を撫でてくれる。
「名残惜しいけど、行くよ。気をつけて帰るんだぞ」
頬に指が滑って、離れていく。
兄の背中を見送って、私も帰ろうと会社に背を向ける。
「おねーさん、はっけーんっ!」
目の前に、乱数さんがいて、手を大きく振っている。
隣には、独特な服を着た知らない男性と、帝統さんだ。
「やっほー。ねぇねぇおねーさん、今のあつーい抱擁を交わしてたイケメンさんは、ダレかなー?」
「乱数、野暮な詮索はするものではないですよ」
「えー、幻太郎だって気になるくせにー」
「まぁ、一番気にしているのは、帝統でしょうけどね」
幻太郎と呼ばれた人が、帝統さんを見る。帝統さんは頭を掻いている。
「こんばんは」
「やほやほー」
「お初にお目にかかります、小生は夢野幻太郎と申します。気軽に幻太郎とお呼び下さいな。さん、あなたのお噂はかねがね」
どんな噂なんだろう。何だか怖いな。
「よ、よぉ」
何でこんなに気まずそうなんだろう。久しぶりという訳でもないのに。
皆さんがいるからなのだろうか。
「それで? さっきの人はだーれ?」
「おい、乱数、やめろって」
止める帝統さんに乱数さんは「やーだよ」とベーっと舌を出した。
「みなさん仲良しなんですね」
「そうかな? ふつーだよ、ふつー」
やっぱりこうして話しているだけで、凄く楽しい。
「あ、そうだ、おねーさん今時間ある?」