第3章 幕は切って落とされた
背に回した手に力が入る。
「まぁ、その家にはその家の事情ってのがあるしな。特にお前は女だし、大事にされてんだな」
大事に。そんな事、考えもしなかったし、言われた事がなかった。
そういう考えもあるのか。ずっと、お前だけが違う、おかしいって言われてるみたいだったから、何だか、胸のモヤモヤが晴れた気がした。
特別扱いをしないこの人は、やっぱり私が求める場所だ。
「……好き……」
「分かってるよ……恥ずいから急に言うのやめろ」
照れてる帝統さんも、可愛い。どんどん好きが溢れてくる。
離れたくないな。
どのくらいこうしていただろう。
瞼は閉じて来て、帝統さんの匂いに包まれて、私は意識を手放していた。
翌朝、髪に何かが触れた感触に目を開いた。
「よっ、起きたか?」
「ん……帝統、さん?」
「おはよ、よく寝てたな。お前が寝てる割に、服全然離さねぇから、一緒に寝る羽目になったんだぜ?」
少し赤くなった後「親父さんに殺されるな」と苦笑する。
時間を見て、まだ時間に余裕があるのを確認し、ベッドから起き上がる。
「私、帰りますね。仕事まで時間あるから、準備したいので」
「おう。送らなくて平気か?」
「はい、大丈夫です。これ以上一緒にいたら、また離れたくなくなっちゃうので、ここで」
一瞬言葉を詰まらせて、頭を掻いた帝統さんに一礼して、ふと隙を見つけてしまって口元が緩む。
一歩踏み出して背伸びをする。
頬に軽く唇を当てた。
目を見開いて固まる帝統さんに「じゃ、また」と笑って背を向けた。
少しでも、彼の中に自分の存在を残せているだろうか。
そうなればいいなと願いながら、帰宅した。
朝が早い父はもう家にはいなくて、私はシャワーを浴びて、用意されたご飯を食べる。
着替えてから軽くメイクをして、髪を整える。
「ちょっと、変えてみようかな……」
髪型の雰囲気を少しだけ変えて、気分も変えてみよう。
仕事の時間になり、家を出た。
今日も色んな場所を回る。ただ、いつもと違ったのは、相手が父ではなく兄だ。
優秀な兄がいるから、私が跡取りというわけじゃないけれど、少しでもお手伝いが出来るように、勉強中である。
兄は優しくて、格好いい。