第2章 翻弄して翻弄されて
したいのはしたいけれど、そういう事じゃなくて。
確かに私は、今の雰囲気に引かれている部分も多少はあるだろう。
でも、それだけじゃなくて、私はただ、彼に触れて欲しくて、触れたいだけなんだ。
「私があなたを欲しがっちゃ、ダメなんですか? 私の気持ちの全部を、否定する権利はあなたにはありませんっ……」
私は泣きながら、帝統さんのコートの首元を掴んで引き寄せた。
背伸びをして、目を閉じる。
「っ!?」
唇が触れた。
私の、ファーストキスだ。
こんなに悲しいものが、初めてのキスなんて、思いもしなかったけれど。
これが最後でも、私は満足だ。
唇が離れ、目を見開く帝統さんから目を逸らす事なく、私は口を開いた。
「帝統さんなんて……きら……きっ……」
その先が言えない。
嫌いなんて、嘘でも言えない。言いたくない。
「好きっ……帝統さんっ……好きっ……」
「っ……あー……クソッ……」
手を引かれ、歩き出す。
涙でグズグズな私が泣き止む事もなく、そのまま街を歩き続け、泣き止む頃にはホテルのエレベーターに乗っていた。
帝統さんは黙っている。
グスグスと鼻を啜る私の手を、離す事はしなくて。
エレベーターが止まり、部屋までが物凄く遠く感じて、心臓が早い。
部屋に着いて、上着を脱いだ帝統さんが、改めて優しく私の手をとって、ベッドへと誘導する。
ベッドに座らされた私の隣に、帝統さんが座る。
顔を向き合わせ、帝統さんが私の涙を拭う。
「ちっとは落ち着いたか?」
「……はい」
「そりゃ、よかった」
呆れただろうか。
まるで子供みたいなわがまま言って、駄々を捏ねて泣いて。
失態を晒した私を、帝統さんは優しく笑って見つめ
、頭を撫でる。
こんなの、もっと夢中になるじゃないか。
これ以上好きにさせて、どうするつもりなんだ。
「怒らないんですか?」
「は? 何に怒るんだよ。お前が怒ってたんだろ」
確かに気持ちを否定された事には、悲しさと同時に、多少不満はあったけど、怒っていたわけじゃない。
「お前の気持ちを勝手に俺がどうこう言ったのは、悪かった。けどよ、ほんとにお前、俺の事……」