第5章 大変だ、飯がない!
「心配してもらえて嬉しい気持ちは分かりますが、あまり心配をかけ過ぎるのもいけませんからね。これからは、怪我をしたらこちらへちゃんと治療を受けに来てくださいね」
「アァ、だからこうやって来てんだろォがァ。………って、オイ!俺は心配されて嬉しいなんてひとっ言も言ってねェぞ!」
「あらそうでしたか?顔に書いてありましたので、てっきりそう思ってらっしゃるのかと思いまして」
「テメェ…」
特に悪びれる様子もなく、胡蝶は可笑しそうにふふふと笑ってやがる。
一言二言何か言ってやろうかと思ったが、多少なりとも「心配されて嬉しい」とか思っていた自分がいたためあまり強くは出れず、仕方なく喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
つぅかどんな顔してたんだよ俺は…。
「チッ…、そろそろ行く。世話んなったなァ」
「いいえ、仕事ですので。あ!そうそう不死川さん」
胡蝶はぱんっと手を叩き、何かを思い出したような顔で俺に尋ねてきた。
「今度会ったら聞こうと思っていたことがあるんですよ」
「ァア?」
「葉月さんのお店の甘味、いつになったら持って来てくださるんですか?」
「…」
ヤベェ、忘れてた。
「私が頼んだ時は、確か桜が散って緑の葉になっていた頃だったと思うんです。それから梅雨に入って、今はもう蝉が元気に鳴いています。あれから随分時間が経ちましたねぇ?」
…数ヶ月経ったなァ…。
俺が黙りこくったのを見てなんとなく察知したのか、胡蝶は更に畳み掛ける。
「忘れてたなんてこと、ありませんよねぇ?」
…笑顔が怖ェ。
忘れてたなんて言った日にゃァ、何をされるか分からねェな…。
「ァ“ア“ー!今日これから行って頼んできてやっから!それで文句ねェだろ⁈」
「ええ、勿論です。皆首を長ーくして待ってますからね」
俺がそう言うと胡蝶は機嫌を直したのか、パッとご機嫌な笑顔を俺に向けた。
切り替え早ェなオイ。
俺が部屋から出ようと椅子から立ち上がると、
「来る時は鴉を飛ばしてくださいね。お茶の準備をしてお待ちしてますから」
胡蝶はにこりと笑いながら付け加えた。
「…オォ」
葉月と茶ァ飲む気満々じゃねェか…。
ちゃっかりしてやがると思いながら、俺は後ろ手でヒラヒラと手を振りそのまま蝶屋敷の診察室を後にした。