第5章 大変だ、飯がない!
葉月のいる店に到着すると、店内は相変わらず賑わっていた。
繁盛しているようだ。
「あれ?実弥さん!」
名を呼ばれ、パッと声が聞こえた方へ顔を向けると、向こうの方からにこにこの葉月がこちらへ駆け寄ってくる。
そしてその勢いのまま…
ぎゅっ、
と俺に抱きついて来た。
…。
葉月チャンよォ。
ここがどこだか忘れてねぇかァ?
いや、嬉しいんだがよォ…。
すると前方から、
「あらまぁお熱いこと」
上品に口元へ手を当てふふふと笑う女将さんが。
それに気付いた葉月がそぉっと俺から離れると、
「嬉しくて、つい…。ごめんなさい!」
恥ずかしそうに頬を染め、両手で顔を覆い隠した。
嬉しくて、ついだと?
オイオイ随分可愛いこと言ってくれるじゃねェか。
んな可愛いこと言ってっと…
「…襲っちまうぞ?」
葉月の耳元で、女将さんに聞こえないようにそっと囁いた。
何を言われたのか分からなかったのか、一瞬キョトンとした葉月だったが、意味を理解した途端赤い顔を更に真っ赤にさせる。
そして…
「お家に帰ってからなら…、いい…です、よ…?」
とんでもないことを言い放った。
…。
家ならいいのか?
んな事言ったらマジで襲っちまうぞ。
いやまだ本当の意味で襲ったことはねェんだが。
葉月が良けりゃァ…
いやいやいや。
…煽られてんな俺。
葉月は無意識なんだろうが。
こんなトコで何考えてやがる。
何しに来たんだ俺は。
…あ“ぁあ“ーー…!
心の中で1人理性と格闘していると、俺の後ろの店の入り口がガラッと勢い良く開かれた。
一気に現実へと引き戻されたことで、俺の失いかけていた理性も戻ってくる。
今し方入って来た人物に感謝…
と言いたいところだが、入って来たのは…
「不死川!こんな所で会うとは、奇遇だな!」
「煉獄…」
俺のよく知る男、炎柱 煉獄杏寿郎だった。