第4章 初めまして、後藤です
風柱邸を出て、ゆっくりと、した足取りで隠の待機所へと戻る。
こんなに穏やかな気持ちで風柱邸を出たのは初めてだ。
今日の不死川様、まるで別人だったなぁ。
あんなに優しい顔してるの、初めて見た。
最後に労いの言葉までかけてくださるなんて、どうしてしまったんだろう。
いや、もしかしたら俺らが知らないだけで、あれが素なのかもしれない。
よくよく思い返してみれば、『いつまでチンタラやってんだァ!』と怒られたあの日、俺らが作業を終えた直後、建物が崩れた。
不死川様はそれが分かってて、急がせる為に敢えてああ言ったのかもしれない。
急ぐこともなく通常通り進めていたら、今頃全員瓦礫の下だった。
怪我をした隠に怒鳴っていたあの日も、怪我した腕に薬を塗って、包帯を巻くのを手伝ってあげていた…気がする。
恐怖で記憶が霞んでるけど、あの後『気ィ付けろよォ』みたいなことを言っていたような…気もする。
不死川様は周りをよく見ているし、気遣いもできる。
俺らが気付けなかっただけで、本当の不死川様っていうのはすごく優しい人なんじゃないか?
今日の不死川様を見ていてそう思った。
あんなに優しそうな顔が出来るんだ。
きっとそうに違いない。
時々でいいから、俺たちにもあの顔見せてもらいたい。
般若の顔よりも、菩薩の顔を拝みたい。
でもきっと、あの顔は水篠さんがいる時だけの特別だ。
そんな時の顔を俺らにも見せて欲しいなんて、ちょっと烏滸がましいよな。
鬼の形相の裏に隠された優しさに気付けただけでも、今日は大収穫だ。
これからは、不死川様のことを無駄に怖がらずに済みそうだ。