第3章 おそろい*
「葉月、お前先風呂入って来い」
お皿を棚に戻しながら、実弥さんは私に先に入るように促す。
けれど、そうするのはなんとなく気が引けてしまう。
「実弥さんが先に入ってください。私は後でいいですから」
「飯作ってもらっといてそんな恩知らずなことできっかよ」
いやいや恩知らずって。
大袈裟ですってば。
「でも…」
「それじゃァ俺の気が済まねぇんだよ。いい子だから入って来い」
な?と、そんな風に優しく言われてしまったら、断ることもできなくなってしまうよ。
「それじゃあ…、お言葉に甘えて」
「オォ。手拭い、脱衣場んトコおいてあっから。浴衣も一緒に置いてある。身体拭いたらそれ着て戻って来いよ」
わぁ、なんて用意周到。
これじゃあまるで…
「実弥さん」
「アァ?」
「いいお嫁さんになれますね」
「…」
思ったことをついポロッと言ってしまった。
「葉月…テメェ…」
あぁそうですよね、そうなりますよね…
こんなこと言われて嬉しい男の人がどこにいるのか。
「バカなこと言ってねェで早く風呂行って来いィ‼︎」
「はい!ごめんなさい!行ってきまーす‼︎」
案の定怒られてしまった私は全速力でお風呂場へと駆け込むのだった。
「ったくよォ…“いいお嫁さん“はテメェの方だろうがァ」
そんなこと、言われているとはつゆ知らず。
怒られてしまってちょっとしょげていたけれど、脱衣場に入った瞬間に部屋いっぱいに広がるこの香り。
実弥さんのお家、檜風呂だ!
しょげていた自分なんてすっかり忘れ、先に入らせてもらったことを感謝しながら、私は実弥さんのお家の檜のお風呂を楽しむのだった。
「わぁ、いい香り〜!」