第3章 おそろい*
「葉月、ちょっと来い」
俺が来い来いと手招きすると、葉月は首を傾げながら土間に立つ俺の前の式台へと降りる。
俺は目の前へとやって来た葉月をぎゅっと抱きしめた。
あー…、癒し。
「ただいま」
「はい、お疲れ様でした」
「…いいなァ、これ」
「え?」
「家に帰ったら、お前がいるやつ」
「ふふ、私も実弥さんにおかえりなさいが言えて嬉しいです」
そう言って嬉しそうに笑う葉月に心綻び。
抱きしめて、ふと気付いたのは見慣れない髪紐。
いつもはりぼんをつけてなかったか?
「いつもと違うなァ、これ」
「あ、これ蜜璃ちゃんとお揃いで買ったんです」
どうですか?と俺に見えるように横を向いて見せてくる。
「いいんじゃねェか?似合ってる」
ぽんぽんと頭を撫でると頬を染めて微笑んだ。
「楽しかったか?」
「はいとっても!今度蜜璃ちゃんのお家に行く約束もしたんです!」
「そうかァ、良かったなァ」
はしゃぐ葉月。
よほど楽しかったらしい。
いつの間にか下の名前で呼ぶようになってるところを見ると、今日一日でより仲が深まったようだ。
「それに、今日はいっぱいお世話になっちゃいました。私が持ちきれなかった食材をここまで運んでくれて…」
「甘露寺は力あるからなァ。頼りになんだろォ。…オイ、ちょっと待てェ。…食材ィ?」
俺はんなモン買って来いなんて頼んでねェが。
そういやさっきっから奥からいい匂いが漂って来る気がしてならねェ。
もしや…
「お前、何か作ったのかァ?」
「…泊まらせてもらうので、お夕飯くらいは作らなきゃと…。ダメでしたか?」
怒られると思ったのか、不安そうに俺を見上げる葉月。
ダメなわけねェ。
むしろ嬉しいくれェだ。
「いや、いい。ありがとなァ」
「よかった!実弥さんお腹空いてますよね?早く食べましょう!」
「おまっ、ちょっ…待てェ!」
「さぁ上がってください」と、ここはお前の家かと突っ込みたくなるような台詞を吐く葉月に引っ張られ、慌てて履き物を脱ぎ散らかす羽目に。
揃える暇も無ェ。
まぁ、俺ン家だからいいかァ…。
そんなに俺に食べさせたいのかホクホク顔の葉月に心癒されながら、手を引かれ一緒に屋敷の奥へと足を進めるのだった。