第2章 母
「この人はね、実弥さんて言うの。
私が鬼に襲われてる時に助けてくれてね、強くて頼もしいんだよ。
実弥さんがいなかったら、私今頃ここにはいなかったかもしれない。
だからね、とっても感謝してるの」
目の前で自分の事を話されるのは少々こそばゆいが、今日はいい。
葉月の話したいようにさせてやる。
「お顔は怖そうに見えちゃうけどね、本当はすごく優しいんだよ」
……。
今余計なことが聞こえた気がするが…
しょうがねェ、聞かなかった事にしといてやるか。
「甘いものが好きでね、あとはねぇ…とっても器用なの。
花冠作ってくれたんだよ。嬉しかったなぁ。
まだまだあるよ、この間ね…」
俺の話をする葉月は生き生きとして楽しそうで、眩しかった。
堪らねェな。
こんなに俺の事を想ってくれる子がいて、
自分で言うのもなんだが…
俺は幸せ者だと思う。
「実弥さんはね、とっても素敵な人だよ。
……お母さんにも会わせてあげたかったなぁ」
しんみりと言う葉月の肩を抱き、そっと引き寄せた。
「わ…」
「どんな、お母さんだったんだァ?」
急に抱き寄せられて照れているのか、頬を染めながら俺を見上げる葉月。
あまりの可愛さに思わず口付けしたくなるが、話の続きも聞きたいのでそこはぐっと堪え、照れる葉月に先を促した。
「えっと…、
いつもにこにこしてて優しくて、お花が大好きで、お料理が上手で…、あ!お母さんも手先が器用だったんですよ。
今着てる羽織もね、お母さんが作ってくれたんです。
上手でしょ?」
葉月は一旦身体を離して袖の端を指先で摘み、ほらっ!と両腕を広げて見せた。
薄緑の着物の上に羽織った綺麗な桜色の羽織は、可愛らしい葉月によく似合っている。
裁縫に詳しくねぇ俺には出来栄えがどうとかはよく分からねェが、きっと葉月の母親はこの羽織を葉月の為に一針一針想いを込めて作ったのだろうなと、葉月の嬉しそうな笑顔を見てそう感じた。