第2章 母
「ほんとに⁈」
パッと顔を上げた葉月の瞳はキラキラと輝いていた。
ホントに元気になりやがった。
まさかそんなに喜ぶとは思わなくて俺まで嬉しくなっちまうが、あまり長くはいられない。
日が沈む前には向こうに着いてなきゃならねェ。
後でがっかりしないようそこは念を押す。
「本当に少しだ。それでもいいかァ?」
「はい!じゃぁ家上がってください!」
思いがけず葉月の家に上がることになった。
マジかァ…
こんな事になるならさっき道端で盛っていた時間をこっちにまわせばよかったと、少しばかり後悔した。
さっきまでしょんぼりしていたのが嘘のように、葉月はルンルンで家の玄関を開ける。
…まぁ、こんな日もアリかァ?
ご機嫌な葉月の後に続き、俺も家の中へと入らせてもらった。
玄関にはいると、下駄箱の上に置かれた花瓶に白い花が飾られているのが目に入る。
「綺麗な花だなァ」
「あそこのお花畑で摘んできたんです。可愛いでしょ?このお花、お母さん好きだったんです」
「そうかァ」
「はい、お花飾るのもお母さんがずっとやってて。『お家の中にお花があると、家の中が明るくなるでしょ?』って。だから私も真似して飾ってるんです」
真似といっても本当に好きじゃなきゃ続かねェだろう。
「花、好きなんだなァ」
「はい、好きです」
葉月はふわりと微笑んだ。
確かに、花があるだけで華やかになるし、気持ちも穏やかになれる気がする。
葉月の優しさは、こういう所からきているのだろうなと思った。
花が好きなら…
俺の家に住むようになったら、あの殺風景な玄関に花が飾られるのか。
それもいいな、とそんな事を想像し、頬が緩む。
「あ、玄関で立ち話なんてごめんなさい!どうぞ」
葉月に促され、家に上がる。
初めての葉月の家。
何となく、心が躍る。
妙な気分だ。