第2章 母
一頻り葉月の唇を堪能した後、ゆっくりと歩き葉月の家を目指す。
なんとなく隣にいる葉月に目を向けると、若葉の香りを乗せた爽やかな風に吹かれ、葉月の柔らかな髪がふわりと揺れた。
綺麗だ…
純粋に、そう思った。
思わず見惚れていると、俺の視線に気付いた葉月が「どうしたの?」みたいな顔で俺を見上げている。
「なんでもねェ」
空いてる手でぽんと頭を撫でてやると、今度は可愛らしく頬をほんのりと染め上げる。
綺麗になったり可愛くなったり、忙しいやつだなァ。
そんなころころと表情を変える葉月が堪らなく愛しいと思う俺は、もう完全に葉月の虜になっちまってる。
どんだけ好きなんだと自分に呆れながら、程なくして葉月の家に到着した。
「じゃぁ行くからなァ」
「はい、いってらっしゃい。ご武運を」
葉月はいつもこうして見送りをしてくれる。
戦いに行く俺の無事を祈るために。
葉月の笑顔を目に焼き付けてから、任務へ向かうため離れようと葉月に背を向けたその時…
くん…と袖を引かれる。
振り返ると、いつもはそんな事をしない葉月が、俺の羽織の袖を控え目に握っていた。
「どしたァ?葉月」
「……あ!わっ…ご、ごめんなさい!」
どうやら無意識だったらしい。
動揺した葉月は、パッと袖から手を離し、慌ててその手を引っ込めた。
「……寂しいかァ?」
「……」
俺がそう聞くと、葉月は俯きながら、一度だけ小さくこくんと頷いた。
俺は黙って葉月の腕を引き、ぎゅっと抱きしめてやる。
「ごめんなさい。いつもは我慢できるのに…」
「……我慢すんじゃねェ」
泣いてはいないだろうが、俺の胸に顔を埋める葉月から感じる切なさに、つい本音が出てしまいそうになる。
俺だって、寂しいんだよ
だが鬼がいる限り、俺達鬼殺隊は行かなきゃならねェ。
この世の鬼全てが滅びるまで戦い続ける。
鬼のいない、平和な世にするために。
ただ今は、俺も離れ難くて…
「もう少し一緒にいてやるから、元気出せェ」
ついそんな事を言ってしまった。