第2章 母
驚いて離れようとする葉月を逃すまいと、背中に腕をまわしぐっと引き寄せる。
さっきよりも身体が密着し、合わせるだけだった口付けもより深くなった。
すると、苦しいのかくぐもった声を発しながら、葉月が俺の肩口を叩く。
いや、殴る。拳で。
「ぷはっ、実弥さん!」
ぷはってなんだよ。
水ん中でも潜ってたんかお前は。
そんでなァ…
「痛ェ」
「だ、だって!ここ外!」
「アァ、外だなァ」
「恥ずかしいです!」
恥ずかしいって…
あんな大胆な事しておいて今更だろォ。
「自分から抱きついてきたヤツがよく言うなァ」
「ぇえ⁈さっ、さっきのあれと今のこれはなんか違います!」
「どう違うんだよ」
「どうって…もぉ分かんないです!」
「ならいいじゃねェか、もう少しさせろォ」
「…人が来たら…」
さっき、葉月の家と花畑との分かれ道を過ぎた。
そこからはもうこの先葉月の家で行き止まりだ。
用事でもねェ限りこっちまでは来ねェだろォ。
「誰も来ねェ、今は俺達だけだ」
そう言って額をコツンと合わせると、葉月は頬を染め、恥ずかしそうに目をきゅっと閉じた。
可愛い。
「で、でも…どっかで…見てるかもっ…」
「お前ちょっと黙っとけやァ」
「っん…」
まだ何か言おうとしていたが、もう我慢出来ねェとその唇を再び塞いだ。
周りが気になるのか身体を強張らせるが、角度を変えながら繰り返し優しく唇を合わせてやると、徐々に身体の力が抜けいき、すっかり俺に身を委ねる葉月。
もう少し行けばもう葉月の家なのに、そこまで待てない俺に呆れず拒む事なく受け入れてくれるこの娘が愛おしい。
堪らずその身体をぎゅっと抱きすくめ、優しくはむような口付けを繰り返す。
家に着いたら俺はお前を置いて任務に行かなきゃならねェ。
だから、もう少しこのままでいさせてくれ。
せめて今だけは…と、次はいつ触れられるか分からないその柔らかな唇を、時間の許す限り味わうのだった。