第2章 母
大通りを抜け、葉月の家へと続く小道を歩く。
美しく咲き誇っていた桜達はすっかり葉桜へと変わり、新緑芽吹く清々しい季節になった。
時折ふっと吹くそよ風が、そっと頬を撫でていく。
「風が気持ちいいですね」
「そうだなァ」
こんなに穏やかな気持ちでいるのはいつぶりだろうか。
鬼殺隊に入ってから、殺伐とした空気の中で、ひたすら鬼を狩る事だけを考えてきた。
狂ったように鬼を狩り、死んだように眠る。
ただひたすらそれだけを繰り返して来た。
そんな俺の前に現れたこいつは、俺に優しさをくれる。
俺に安らぎを与えてくれる。
荒んだ俺の心を柔らかく溶かしてくれた。
こいつと一緒なら、俺はまともでいられる気がする。
むしろ、葉月のいない未来なんかもう考えられねェ。
掴んだ幸せをもう離してたまるかと、俺は繋いだ手にぎゅっと力を込める。
それに気付いた葉月が俺を見上げた。
「実弥さん?」
「葉月…。ずっと、一緒にいてくれるか?」
立ち止まり、情けない程小さな声で呟いた俺に、葉月は目を丸くする。
呆れただろうか。
男がこんな女々しく縋るような事を言って。
酷い姿を晒しちまったと思っていたら、ふと胸に感じる愛しい温もり。
はっと我に返ると、俺は葉月に抱きしめられいた。
「オイ葉月っ…お前…」
「ずっと、一緒ですよ。実弥さん」
葉月の言葉が俺の心に沁み渡る。
それを聞いただけで、俺は幸福感で満たされた。
ホント、お前ってやつは…
「可愛い過ぎんだろォ」
ぎゅっと抱きしめ返すと葉月は嬉しそうに笑った。
「この前と逆ですね。私の方が縋ってたのに」
「…今日だけだァ」
「ふふ、私だけが知ってる実弥さんが見れて嬉しいです」
そんな事をぬかす。
「お前なァ、俺をおちょくるのもいい加減にしろよォ?」
「え⁈おちょくってないです!ただ可愛いなっておも…っ!」
可愛いなんてぬかすその口を、己の唇で塞いだ。
言われてたまるかァ。